2012年8月26日日曜日

2012年8月26日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(86)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(83)
       内山 思考   読む

■ 私のジャズ(86)        
       松澤 龍一   読む

俳枕 江戸から東京へ(86)

三田線に沿って(その1)自然教育園
文:山尾かづひろ 

自然教育園入口










都区次(とくじ): それにしても暑いですね。どこか木陰の多いところへ行きたいですね。
江戸璃(えどり): それでは御成門駅から都営三田線に乗って白金台の自然教育園へ行くわよ。
都区次: 都内にあって自然のままに残された、この森と池の景はいったい何ですか?
江戸璃: 江戸時代は大名松平讃岐守の下屋敷でね、明治以降は海軍の火薬庫などの国有地として推移したために手つかずの自然が残り、戦後になるまでタヌキの生息が確認されていたそうよ。

館跡土塁の語る夏の果 熊谷彰子

江戸璃:戦後は戦後で国立科学博物館付属の自然教育園として継承されたため、このような自然が残されているのよ。


園内










逝く夏や風と脱けゆく自然林 長屋璃子(ながやるりこ)
水馬機械動作の果し合ひ 山尾かづひろ

尾鷲歳時記(83)

飛行機今昔
内山思考

赤とんぼ少年親を濃く離れ  思考

文字の洋上を飛ぶ鋳物の戦闘機









飛んでいる飛行機を眺めるのが好きで、たまたま見上げた空の高見に旅客機が白い尾を引いていたりすると、時間の許す限り目で追ってしまう。地鳴りのようなジェット音が大きく小さく高く低くあたりに満ちるのも好ましい。これがヘリコプターだと興味がない。音もうるさく感じられて早くどこかへ行ってくれ、と願うことが多い。今、話題になっているオスプレイももう一つスマートさとデリケートさに欠けている気がしてならない。要するに、滑走路を滑るように加速して舞い上がり、空間に在るときは滑らかに飛翔し、その後、再び滑走路に美しく降り立つあの姿がかっこいいのである。

夜、二階の僕の寝床から足元の北の窓を見ると夜間飛行のランプの点滅が闇を横切るのがよく見える。それもまた優雅だ。ちょうど左手(西)の便石山(びんし)から右手(東)の天狗倉山(てんぐらさん)の上空が航路のようで、名古屋のセントレア空港か関東方面へのフライトだな、機内はどんな様子だろう、と想像したりもする。枕に頭を乗せていても見えるので、僕にはとても贅沢な楽しみの一つである。

彼方に思いを至らせるのはメンタルな鎮静効果もあるらしく、僕に眠れない夜はまずない。飛行機と言えば、僕が愛用している文鎮の中に、鋳物製の戦闘機がある。戦前あるいは戦中の玩具のようで、適当な作りなのがかえって時代を感じさせる。


ずいぶん前、妻の従兄が尾鷲に空爆があった日の話をしてくれた。尾鷲湾に停泊していた軍艦が標的だったそうだが、天狗倉山の後ろから敵機(グラマン?)が現れて山腹を這うように急降下、機銃掃射して行った、と身振り手振りで、従兄には昨日のことのように思われるらしかった。

この山を越えて米機が来襲した
その時の一機が沖に墜落、しかし幸運にも生還したパイロットが、今年六十数年振りに来鷲し、軍艦(敵機攻撃により浸水着底)の乗組員と再会するニュースもあった。墜落して海に漂っていた時、近づいてくる日本の船に捕らえられたら殺される、と必死に沖へ泳ぎ、米軍の潜水艦に救助されたのだそうだ。そんな戦闘があったとは思えない今の尾鷲の空と海と山。

私のジャズ(86)

グラント・グリーン
松澤 龍一

BLUE & SENTIMENTAL /IKE QUEBEC
 (BLUE NOTE 0777 7 84098 23)













上掲のCDはテナー・サックス奏者、アイク・ケベックがブルー・ノートに吹き込んだ数少ないリーダーアルバムである。アイク・ケベックて誰? ハード・バップ時代に活躍したホ―キンス系のテナー奏者であるが、よっぽどジャズを聴き込まないとお目にかかれるプレーヤーでは無い。

ホ―キンスの温かみのあるビブラートをきかせた音色を、もう少し荒々しくしく、ダーティーにした音色で、音色的には後に続くアーチー・シェップやアルバート・アイラーの先駆をなしていたのかも知れない。当時はホ―キンス直系のソニー・ローリンズの全盛期、さらにコルトレーンと続く中で、アイク・ケベックのような音色のテナーはあまり日の目を見る機会が無かった。

サイドメンが素晴らしい。ベースはポール・チェンバース、ドラムスはフィリー・ジョー・ジョーンズとハード・バップ時代のオールスターキャスト。定番のピアノでは無くギターが加わっている。このギターがグラント・グリーンである。久しぶりに聴いてみて、グラント・グリーンは中々良い。

テクニックを弄することなく、淡々とシングル・トーンでギターを弾いているが、ブルースフィーリングに溢れ、歌心に溢れ、中々聴かせる。ロック系のやたらと騒々しい、派手なギターに慣らされて耳には、かえって新鮮に響く。ユーチューブの音源から「ワーク・ソング」、言わずとしてたナット・アダレーの名曲である。グラント・グリーンも、付き合っているオルガンも乗っている、ファンキーそのものである。こう言ったジャズも良い。


http://www.youtube.com/watch?v=tlNwprawJIE