2015年10月25日日曜日

2015年10月25日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(251)
       山尾かづひろ  読む

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尾鷲歳時記(248)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(251)

文:山尾かづひろ 
挿絵:小川智子  

富有柿

















江戸璃(えどり):柿をたくさん貰ってね。食べて行かない?

柿を剥くと今月初めに行った「寺家ふるさと村」を思い出すわね。あそこは富有柿を多く栽培していてね。「浜柿」という名前で売っていたわね。横浜の柿ということらしいわね。

水澄めりふるさと村の水車小屋  忠内真須美
稲架掛けの離れ離れに黙々と   福田敏子
桜紅葉鎮守の庭にままごとを   忠内真須美
昼の虫繁き谷田の日蔭道     柳沢いわを

江戸璃:前回の板橋区乗蓮寺(東京大仏)は吟行日和で何よりだったわね。

大仏の笑みに誘はれ小鳥来る   油井恭子
大寺の屋根反り返り秋の空    白石文男

都区次(とくじ):ところで、今回はどこですか?

江戸璃:10年ほど前にも行った思い出の道を歩くと、当時の天を衝くような元気が現実に戻ってくるから不思議よね。というわけで今回も板橋区に詳しかった寺田り江さんの案内を思い出して、私の独断と偏見で板橋区の赤塚植物園へ行くわよ。

竹の春織部灯籠灯を点す     寺田り江

江戸璃:赤塚植物園は武蔵野の面影を色濃く残す赤塚の丘陵地を活用し、自然や植物がより身近なものとして親しむことができるような施設として昭和56年に開園したのよ。

倒立の記憶かすかに女郎花     戸田喜久子
林檎生る天地たわむばかりなる   飯田孝三
耕せる土に直ぐ来る石たたき    光成高志
撫子や崩れてをりぬ砂の崖     光 みち
すすきの穂一括りして通り路    小山陽也
黙やぶる添水の一瞬見逃さず    近藤悦子
萩の道野草の道と続きけり     白石文男
蓑垣に日のふっくらと草紅葉    甲斐太惠子
小流れと野草の道に秋を聞く    石坂晴夫
榧の実の核は薬用匂ふなり     油井恭子
秋澄めりユーカリの道風透ける   甲斐太惠子
つくばひに秋雲一片浮かびをり   白石文男
蓑垣根めぐらす家屋新松子     石坂晴夫

江戸璃:アクセスだけれど東武東上線「成増駅」北口から赤羽駅西口または志村三丁目駅行のバスで「赤塚八丁目」下車、徒歩5分で行けるわよ。

万葉の花くさぐさや秋寂びぬ    長屋璃子
雲とれて肩こづき合ふ花梨の実   山尾かづひろ

尾鷲歳時記(248)

速玉(はやたま)さんの歌声 
内山思考 

静かなる神の立ち居や木の実降る   思考

左からとしこ、かねみ、みつる、みどり
の各嬢









小さな木の笛、コカリナの奏者でシンガーソングライターの黒坂黒太郎さんと、奥さんの歌手、周美(かねみ)さんが、和歌山県新宮市の速玉大社(熊野三山の一社)で奉納コンサートをおこなうというので聴きに出掛けた。周美さんは新宮高校時代のクラスメートだ。多分、同級生たちも来るだろうから、秋晴れの中で学生気分に戻って過ごすのはステキなことだ。

わくわくしながら七里御浜を左に見て国道42号線を疾走すれば、案の定、ずいぶん前に新宮大橋を越えてしまった。最初の交差点を右に曲がればもうそこが速玉さんである。さすがは世界遺産の熊野三山、数台止まった大型バスのまわりを参拝の観光客が行ったり来たり。「やっぱりな」惠子が呟く。そんなに早く出なくてもと言ったのを、イラチの僕は無視して出発して来たのだ。でも、敷地内に建つ「佐藤春夫記念館」を見学するいい機会ではないか。

佐藤春夫記念館の前で
紀州育ちの僕は子供の頃から、この偉大な文豪に親近感を抱いている。まあ、名前が同じ「はるお(僕は晴雄)」と言うだけで作品を深く理解しているわけではないのだけれど。そして時間まで僕と惠子は、東京から移築されたという佐藤春夫の旧宅に浪漫の心を遊ばせたのであった。



速玉大社二十句

木犀の金字をなせる大気かな
大河にも海にも近き秋社(やしろ)
色鳥や神域をもて塒(ねぐら)とす
稲刈りのあと田園は憂鬱か
三山に詣でよ秋刀魚食いに来よ
神前に糸瓜ごころを鎮めたり
文豪や喫煙撮られ秋袷
秋澄みて影も明るき宮の前
手柄杓へ竜が水吐く秋うらら
同級生秋果市場のごと集う
明日よりも過去を自在に飛ぶ小鳥
秋声の祝詞に太古呼応せり
賽銭に瞬時の浮力 音爽やか
奉る美声や紀伊の秋深し
羽根せわし曲の間(あわい)の稲雀
笛の音に言霊を乗せ菊の月
秋日和「天・神宮・礼す(アメージン・グレース)」朗々と
麗しや本殿に鳴く鈴虫は
朝は白露 夜は酒精に湿す喉
直線を神意と思う月の距離