2015年1月4日日曜日

2015年1月4日の目次

新年明けましておめでとうございます。

■ 俳枕 江戸から東京へ(209)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(206)

       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(209)

人形町(その1)
文:山尾かづひろ 


大安楽寺










都区次(とくじ):新年おめでとうございます。それにしても、このところの寒さときたら異常ですよね。

雪吊の真上の空の硬さかな 宮島桂子

都区次: 前回は谷中の天王寺(てんのうじ)でしたが、今回はどこへ案内してくれますか?

仏より恵方の菓子に誘はれし 佐藤照美

江戸璃(えどり):人形町よ。
都区次:また、どうして人形町なのですか?すき焼きでも食べに行こうというのですか?
江戸璃:こう見えても私は戦前の品川で育ったのよ。人形町で並んでまでして食べ物屋に入りたくなんかないわよ。京菓子を買いたくなったのよ。人形町には明治の遷都のときに天皇・公家にくっ付いて京都から東京へ出て来た京菓子屋がけっこうあるのよ。というわけで、12年ほど前に大矢白星師に案内して貰ったコースを歩こうというわけ。まず、東京メトロの日比谷線で小伝馬町駅まで行って、4番出口から出るわよ。この出口は十思公園(じっしこうえん)へ出るのに便利なのよ。
都区次:何ですか?この公園の不思議な空間は?
江戸璃:この十思公園は江戸時代に有名な伝馬町牢屋敷があった場所で幕末の安政の大獄の時には長州藩の志士や、吉田松陰が処刑された場所なのよ。ちょうど今日から始まる今年のNHKの大河ドラマ『花燃ゆ』は吉田松陰関連だそうよ。
都区次:公園から見える所に大安楽寺という寺がありますが、関係がありそうですね。
江戸璃:明治初年、高野山の山科俊海大僧正が伝馬町牢の処刑場跡に燐火の燃えるのを見て、鬼哭啾々(きこくしゅうしゅう)の知られざる無数の霊、吉田松陰等、当地で処刑された勤王の志士の霊を慰めなくてはならないと判断。明治5年より勧進したわけよ。明治政府は市街地には寺院を作らない方針であったけれど、例外的に寺院を建造することを許可したのよ。明治8年一宇を建立。高野山より弘法大師を勧請して本尊としたのよ。誰も住み着かない地に、明治15年、のちに財閥となる大倉喜八郎と安田善次郎が寄進して建てた寺で、大安は、両者の名(「大」と「安」)から採ったものなのよ。なお、堂内に安置された辨財天は、運慶の作だそうよ。又、処刑場跡には延命地蔵菩薩を建立し、下部に書かれている「為囚死群霊離苦得脱」は、山岡鉄舟の筆だそうよ。


延命地蔵











草石蚕(ちょうろぎ)や知るも知らぬも寺詣で  長屋璃子
草石蚕の添へし京菓子古暖簾       山尾かづひろ

尾鷲歳時記(206)

スタンド・バイミー 
内山思考

平熱と微熱の夫婦初日受く  思考 

那覇の初日の出












明けましておめでとうございます。
那覇で元旦を迎えるのは昨年に続いて二度目である。大晦日は知人や子供たちと何度かメールのやりとりをしながら紅白歌合戦を見て、寝床に入ったまま年が変わるのを待った。恵子はもう隣で寝ている。無音にしたテレビ画面の時刻がカウントダウンを始め、ゼロが3つ並んだと思ったら、どこか遠くで甲高い音がし始めた。法螺貝にもにたトーンだが、息を継ぐ様子も無い。

ああ、安謝(あじゃ)は港が近いから、新年を告げる汽(船)笛かな、などと思う内にまどろみに呑まれて、気づいたら朝。東の窓がカーテン越しにぼんやりと1月1日を照らし始めていた。沖縄は曇りの予報だったが、ちょうど雲が切れ初日が現れたので、二人それぞれに狭いベランダから手を合わす。買い置きのおせちを食べてから妻はテレビを見、夫は読み初めに取って置いた沖縄本に夢中となる。数刻経過、昼食をあり合わせで済ませた後、坂の下のマーケットへ買い物に出かけることにした。

一人の時は歩きである。元日としてはまあまあの人出だ。総菜と卵を買ってふと振り返るとレジの近くで少年が屈むのが見えた。硬貨を拾ったようである。店を出て回転寿司の前を通ると、今度は外のベンチに座っていたお姉さんが、ふいに足元に手をやった。一つ二つ、三つ目に摘んだのは十円玉らしい。僕は思わず微笑んだ。あの二人、正月そうそう小銭とは言え、お金を拾うなんてついてるな、しかし待てよ二度あることは三度ある、自分だって何か拾うかも知れない。

和田悟朗さんに
年頭のハガキを
いつもより念入りに大地を睨みながら、アパートまでの帰路を辿ったのだが、世の中がそんなに都合よく出来ているはずもなく、僕は少し息を切らせながらアパートの階段を上って妻のもとへ帰ったのだった。ところがである。ちょうど部屋へ入った時に、テレビの中の少年がこちらを向いて叫んだのだ。「見ろよ、拾ったぜ、1ペニーだ」・・・・・と。