2015年11月15日日曜日

2015年11月15日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(254)
       山尾かづひろ  読む

■ 
尾鷲歳時記(251)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(254)

旧古川庭園
文:山尾かづひろ
挿絵:矢野さとし  


旧古川庭園
















江戸璃(えどり):前現代俳句協会々長の宇多喜代子先生の御著書「新版 里山歳時記」の第3章「秋から冬へ」には先生の子供時代、里芋の収穫時季に樽と棒による皮剥きが先生の仕事の一つとしてあった、という興味深い一節があるのね。という訳で野木桃花師は里山の風景をよく残した横浜市の「舞岡ふるさと村」に立冬直前の景色を拾って、宇多先生の世界を垣間見ようと出掛けたわけ。

残る虫忘れないでと言ひたげに  浜野 杏
ふかふかの山陰ゲ石蕗の花明り  砂川ハルエ
行く先を大樹にゆだね蔦紅葉   平井伊佐子
色鳥や木の間の闇を騒がしく   油井恭子
あの奥に農家の暮し秋深む    大木典子
カラカラと茶の実遊ばす掌    乗松トシ子
せせらぎに色をこぼして照紅葉  白石文男
花芒これから飛ぶと風に伝げ   清水多加子
荻の風カッパの像を通りすぎ   緑川みどり
とりあへずここに咲きます花芒  甲斐太惠子
土手一面光と遊ぶ赤のまま    宮崎和子
虫喰ひに生命の証柿紅葉     金井玲子
赤の衣に疲労困憊烏瓜      山尾かづひろ
リス跳んで晩秋の黙解き放つ   野木桃花

都区次(とくじ):前回は江戸川区の小松川・境川親水公園でしたが、今回はどこですか?

江戸璃:冬薔薇と洋館に己が琴線が触れたらどうなるか篤と見てみたいので、私の独断と偏見で東京都北区の旧古川庭園へ行くわよ。

冬空に置き忘れられ飛行船    戸田喜久子
水覆ふ櫨より紅葉始まりぬ    柳沢いわを
散りもみぢ呑みては吐ける池の鯉 福田敏子
石蕗の花園散策の道標      石坂晴夫
洋と和の庭園並び冬に入る    白石文男
薄紅葉昼の灯点す黒館      近藤悦子
旧邸の隅を彩る石蕗の花     油井恭子
行く人や帰り来る人冬の薔薇   甲斐太惠子
冬紅葉園の水面に紅うつす    石坂晴夫
大正の面影残し冬館       白石文男

江戸璃:アクセスだけれど山手線の駒込駅から徒歩10分ほどよ。

冬薔薇や古き館の幾星霜   長屋璃子
エリザベス風格胸に冬の薔薇 山尾かづひろ

尾鷲歳時記(251)

冬の旅・銀杏の巻  
内山思考 

薬喰(くすりぐい)顔を見合わせては笑う  思考 


安養寺の石磴をのぼる












立冬の声を聴いて旅に出掛けた。初日に、島根は奥出雲のお寺を訪ね、その日は岡山市に宿泊、翌日フェリーで小豆島に渡りオリーブと「二十四の瞳」の島を探求、さらに一泊して島の西側の福田港から姫路経由で帰路につくというスケジュールだ。もとは妙長寺の青木上人たちが、三明副住職の学生時代の友人(僧侶)に会いに行く計画で、それに内山夫婦も便乗させてもらったのである。何でも、そのお寺には天をつく銀杏の大木があって当季は見事な黄葉風景が見られるとのこと。

重い雨雲を気にしながら朝六時に出発、朝食を甲賀土山のSAで済ませると、一行の車は京都の南をひと舐めし播磨、美作、備中備後と快調に走り何処やら(忘れた)のSAで昼食後、東条ICから一般道に降りて山中を北上した。立冬を過ぎたとは言えまだ晩秋の気配が濃く残る野山は、黄色と紅色が小雨に濡れてまことに美しい。急がぬ旅の気安さで幾度か路肩に停車しては撮ったり撮られたり、昼過ぎにようやく目的地の安養寺(田中祐司住職)へ到着した。
金言寺初冬風景
雨に濡れた石段を先に登った青木夫人が歓声を上げた。後に続くと境内一面が銀杏の落葉で金色に輝いている。枝はあらかた裸になっているがこれはこれで見事な景色だ。しかし驚くのはまだ早かった。庫裏に通されてしばし談笑のあと、住職の車の先導で案内された金言寺(住職の本寺で父君、田中克彦上人がおられる)には樹齢七百年余の大銀杏の枝々が、冬雲を鷲掴みにするように聳えて我々を迎えてくれたのである。高さがあるだけに散った黄葉が本堂の屋根(なんと茅葺き)や巨樹を映す浅い田の水辺水底に広がり、紀伊の国の旅人はただ眼を見張るばかりであった。

雲近き鷲の翼よ鈴鹿越え
凩や都の裾を掠めたる
石州に冬は至りぬ赤瓦
冬浅し紀伊と出雲の僧和して
五つ六つ時雨傘寄る里の寺
曇天の銀 南無 銀杏落葉の金
冬田に水張りぬ巨木を映すため
水の面に逆さ銀杏や三十三才(みそさざい)
住職の金言染みる長火鉢
夕景や城址は冬の雲の中