2015年4月13日月曜日

2015年4月13日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(223)
       山尾かづひろ  読む

■ 
尾鷲歳時記(220)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(223)

城ヶ島(その2)
文:山尾かづひろ 


三崎漁港









江戸璃(えどり):早いわね。先週は花祭があったのよね。

甘茶仏天上指す手曲げ給ふ 光成高志

都区次(とくじ):江戸璃さんは先月の3月に大矢白星師の案内で城ヶ島を回って来ましたね。

富士に向く白秋の詩碑涅槃西風 小倉修子
春潮や富士に対峙の白秋碑 小林道子
春潮や白秋詩碑は帆の容(かたち) 土屋俊子

そのコースを4月に私へ説明してくれるという事で前回は、城ヶ島大橋と白秋詩碑へ行きましたが今回はどこですか?

船大小漁港に舫ふ桜東風 熊谷彰子

江戸璃:城ヶ島漁港と、漁港近くの食堂へ行くわよ。城ヶ島にあるから「城ヶ島漁港」と思うのだけれど、「城ヶ島漁港」というのは無くて対岸の三浦三崎と城ヶ島が一体となった「三崎漁港」があるだけなのよ。ただしこの漁港には、みうら漁業協同組合、諸磯漁業協同組合、と城ヶ島漁業協同組合の三つの漁業協同組合があって「城ヶ島」の名前の看板も見られるわよ。この漁港は「特定第3種漁港」という漁港に指定されていて、戦後の占領期に設定された「マッカーサー・ライン」内の太平洋、日本海、東シナ海への日本漁船の遠洋漁業が可能だという漁港だそうで、全国にこんな漁港は13港しかないそうよ。

青饅(あおぬた)を添へし漁港の鮪丼 寺田啓子
黒南風や艫にごろりと潜水具 奥村安代
冴返る鮫の剥製宙づりに 大本 尚

都区次:ところで昼食はどこへ行ったのですか?
江戸璃:せっかく城ヶ島へ来たのだから島の漁師が水揚げした魚を食べようと、そういう類の食堂へ行ったのよ。
都区次:そういう類の食堂がよく見当がつきましたね。下調べでもしたのならともかく、洗足池にお住まいの白星師が簡単に下調べなど出来ないではないですか?
江戸璃:白星師のお妹さんの小倉修子さんが横浜の洋光台に住んでいらして簡単に下調べが出来たのよ。あら、喋りすぎちゃったかしら。
漁港の食堂










飾らざる漁港食堂浅蜊汁  長屋璃子
壺焼の角を焦がされ猛憤怒 山尾かづひろ

尾鷲歳時記(220)

花と葉、鼻と歯
内山思考 

春雨の全滴明かし大安日  思考

雨の桜には
「滲みの美」がある









雨だ曇りだとしばらく青空を見ない天候状態なのに、今年の桜はなかなかしぶとくて、街路や山腹に咲いているのを見かけるたびに、枝枝の葉が出番を待ちかねて「早く早く」と足踏みをしている気がする。全国的に気温がなかなか上がらないせいで植物界の営みも緩慢なのであろう。関東では遅がけの雪も降ったそうだ。今、小雨の中、わが庭の霧島ツツジは真っ赤な花芽を一杯つけているし、牡丹と来たら、蕾の宝珠を捧げた観音様のようにたおやかに立っている。これで快晴温暖の陽気が一度にやって来たら、たちまちに開花してしまうだろう。

そうなるともう春風は、吹くたびに天人五衰を急がせるばかりだ。咲く花が宝物なら、そこへ到るまでの過程は「宝ごと」である。その味わいこそ人生の醍醐味だから、いつまでもダラダラ寒いのは嫌(朝からストーブつけっぱなし)だけれど、たまに障子を開けてガラス戸の向こうの庭の色付きを眺め、この状態が少しでも長く続けばいいのにと思ったりもするのである。

ところで、僕の多くの「宝ごと」の一つに食生活がある。味の濃いもの辛いもの以外に好き嫌いは無く、全てご馳走思考だが、四季折々の山海の恵みには、もともと崩れがちの相好がいよいよ崩壊する。先日、恵子の友人が摘みたて湯掻きたてのワラビを山の如く持ってきてくれた時など、恵比寿に大黒に福禄寿を足した顔になっていたに違いない。早速、地元名産カツオ生節と油揚げとの煮物、それに味噌汁の実にしてシャキシャキとした至福の歯触りを充分に堪能した。

左・ワラビ汁、右・煮物
やがてタケノコも出回ってくる。山菜の王タラの芽も、一度や二度は空を飛んで(これも他人任せ)やって来るやも知れず、晩春に向けて期待は大きくなるばかりである。白状するとかなり歯の具合が悪く、粛々と歯科通いをしている身だ。でも和田悟朗さんの「卒寿過ぎても自分の歯」には到底及ばぬまでも、まだまだ五感と食感は強く保ちたいと願っている。