2012年11月11日日曜日

2012年11月11日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(97)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(94)
       内山 思考   読む

■ 私のジャズ(97)        
       松澤 龍一   読む

俳枕 江戸から東京へ(97)

三田線に沿って(その12)内藤鳴雪・正岡子規
文:山尾かづひろ

子規 明治23年


 











都区次(とくじ): 前回、炭団坂の寄宿舎・常盤会の舎監として内藤鳴雪の名が出てきましたが、この人は俳句の子規門下の長老となりましたね。子規との関わりはどのようなものだったのですか
江戸璃(えどり): この内藤鳴雪は元々、伊予松山藩の上級藩士だった経歴から常盤会宿舎の舎監になったのね。常盤会宿舎はI字形の二階建の建物で、その宿舎の棟つづきに内藤鳴雪は舎監として一家を構えていてね、明治21年の9月、一高の本科へ進級した子規が常盤会宿舎に入寮してきて、子規に感化された鳴雪が俳句の弟子として入門したのよ。

懐手解いて道順差しにけり 吉田ゆり

都区次:舎監が20歳ほど年下の寮生に入門したわけですか?
江戸璃: 確かに、そうなのだけれど当時、常盤会宿舎に入寮していた河東碧梧桐の書いた「子規を語る」によると、子規に対する鳴雪は寮生を監督する立場とは言っても半ば友人として交際する間柄だったと書いているわね。



万象に休眠態勢冬立てり 長屋璃子(ながやるりこ)
踏み込みし落葉の厚み街路裏 山尾かづひろ 


尾鷲歳時記(94)

技の極みと魚のうま味
内山思考

 芋粥を吹き冷ましおり古語聞きたし 思考

平櫛田中のパンフなど



















津市の県立美術館に行ってきた。日本彫刻界の巨人、平櫛田中(でんちゅう)展が催されていたからである。実は僕は、氏の作品を「尋牛」しか知らず、それも尾鷲出身の化学者、長野博士に随分前に戴いた著書の写真で見ただけだ。文中で博士は「平櫛田中は、人間の精神を人間の姿形を借りて表現した」と述べている。

さて会場に入って圧倒された。全ての作品が魂を持ち息づいて(ああ月並みな感想)いるのだ。妻は田中が自らの長男を模した「幼児狗張子」が可愛くて、しばらく目が離せなかったとあとで言い、僕はこれが本当に木彫なのか…と前後左右どこから見ても一分の隙も無い立体感に只々唸るばかりだった。

代表作と名高い、名優六代目菊五郎をモデルにした「鏡獅子」の小型も「試作」とうたわれてはいるがそれはそれで見事だし、東京の国立劇場ホールにあるという「鏡獅子」の大像(高さ230㌢)を観る新たな目標が出来たのは嬉しいことだった。半世紀前、「鏡獅子」を二億円で買い上げようとした国に「お金はビタ一文いりません」と無償寄贈した田中の逸話は清々しい。

話題は変わって、知人のH君がどっさり柿を持って来てくれた。立冬を過ぎたとはいえ東紀州の気候はまだ晩秋、柿は今が盛りである。隣家の奥さんに「柿いりませんか?」と聞くと頂きますとの返事。持って行くとお礼に魚の干物をこれまたどっさりくれた。なんだか昔話に出て来る「わらしべ長者」になった気分で帰宅、早速夕食に沖鱚(オキギス)の干物と味醂干しを焼いて食べたが、その旨いこと美味いこと。
大鰺(あじ)の白焼き
炊き立ての御飯を二杯(丼で)お代わりして「魚は美味しいなあ、お母さん」熱いお茶を啜りながらしみじみ妻に言った。五分も歩けば尾鷲港なのに、日常あまり魚食をしないのは別に魚嫌いが理由ではない。近年の肉食偏重の食生活によって、魚がおかずとしての定位値を失ってしまったのである。もっと魚食べなきゃと思った次第。



 
 
 

私のジャズ(97)

史上最強のコンボ
松澤 龍一

CLIFFORD BROWN and MAX ROACH
at Basin Street(Emarcy B14 648-2)













モダンジャズ期に限定して、史上最強のコンボは何との問いに対し、なんと答えるか考えてみると、ベストスリーに入らないにせよ、次の三つのコンボはベストテンあるいはベストファイブには名前を連ねるものと信じている。その一つは、マックス・ローチとクリフォード・ブラウンのクインテット、二つ目に、マイルス・デヴィスのオリジナルクインテット、そして最後に、どうしてもあげたいのがジョン・コルトレーンとエルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)、ジミー・ギャリソン(ベース)とマッコイ・タイナーのクインテットである。

マックス・ローチとクリフォード・ブラウンのクインテットが活躍したのは1950年代、まさにハードバップが花開いた時期であった。マックス・ローチの細やか、かつ音楽性に溢れるドラムスをバックにソロを取るクリフォード・ブラウンのトランペット。中音域を良く生かし、流れるようなメロディーライン、絶妙の間、どれをとってもジャズ的感興を奮い立たせるものであった。

下記音源は In Concert  と題されたライブ録音で、バッド・パウエル派のピアニスト、デューク・ジョーダンの作曲したジョルドゥと言う曲が一曲目に入っている。メロディアスな名曲で、この頃のクリフォード・ブラウンにはぴったりとはまる。確か二曲目だったと思うが、I Can’t Get Started  と言うスタンダードが入っている。残念ながら、ユーチューブでは見つからなかった、これこそはモダンジャズ史上最高のバラードプレイの一つであると思う。