2012年11月25日日曜日

2012年11月25日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(99)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(96)
       内山 思考   読む

■ 私のジャズ(99)        
       松澤 龍一   読む

俳枕 江戸から東京へ(99)

三田線に沿って(その14)河東碧梧桐・高浜虚子
文:山尾かづひろ 

虚子 青年時代












都区次(とくじ): 前回、子規と碧梧桐の出会いのことは知りましたが、俳句の子規門の双璧として並び称されるのが碧梧桐と虚子なのですが、虚子はどのように係わってくるのですか?
江戸璃(えどり): 元々、碧梧桐と虚子とは松山中学でクラスが同じだったのね。ただし、碧梧桐は腕白小僧で、虚子は秀才でクラスで一、二番の主席を争う成積だったものだから、ほとんど交流はなかったのね。当時、流行っていた回覧雑誌をクラスの有志で始めてね、虚子がリーダーになったのよ。ところが虚子は秀才だけど線が弱かったのね。それで他の有志が「字が上手い」からと線の強い碧梧桐を煽てて仲間に引っ張り込んだのよ。それが碧梧桐と虚子の交流の始まりなのよ。

大綿や竹馬の友と言へる仲 佐藤照美

都区次: 碧梧桐と虚子が繋がった切っ掛けは分ったのですが、虚子と子規とが繋がった経緯はどのようなものですか?
江戸璃: 碧梧桐が一高の受験準備のために松山から東京に行って常盤会宿舎へ入寮したわね。そうしたら相棒を失って淋しくなった虚子が碧梧桐に手紙で宿舎の子規を自分に紹介し、同封の和歌原稿と句原稿の添削を頼んでみてくれと懇願してきたのよ。


冬灯店に掲げし古川柳 長屋璃子(ながやるりこ)
小春空遠き友より文届く 山尾かづひろ 



尾鷲歳時記(96)

勤労感謝の日
内山思考

水抱いてくしゃみも出来ぬ地球かな  思考

内山夫妻、天安門広場で











11月22日 は「いい夫婦」の日だそうだ。 日本語が語呂合わせしやすいのか、それとも国民性なのか、こういう記念日がよくある。多少、商業的に利用される場合もあるが、そんなアクセントが一年のどこかにあってもいいだろう。案の定というか、夕食の熱いクリームシチューを「ヒイヒイ(いい)フウフウ(夫婦))」吹き冷ましながら食べていたら、義従姉のカヨちゃんから電話がかかって来た。

今日、「古道の湯」へ夫婦のツーショット写真を持って行くと、入浴券を二枚サービスしてくれると言うのだ。そこは海洋深層水を使った温浴施設である。「行かないよ」と僕。 実は風邪気味なのである。二、三日前から炭焼の親方が声を嗄らし水洟を垂らし、昨夜は我が家の娘が寒気がすると言い出しそれを貰ったとは言わないが、あまりいい環境ではなかったところへ、朝から首筋に違和感が。これは僕にとっての赤信号なのだ。

「ええよ、カヨちゃんもヤッちゃん(旦那)風邪引きやって」
あらら…、と言うわけで僕は米倉涼子主演のテレビドラマ「ドクターX」を見ながら寝てしまったのだった。明けて23日。7時のチャイムが遠い濁世で鳴っている。
「どう、行ける?」と妻、
「エッ、どこへ?」
「どこへって、映画へ行くって約束してたのに」
「無理!」
体中の倦怠感を訴えて断ると、そんなら一人で行って来ますと凄い馬力の彼女は、布団の中にいる僕の額に手を当て「まあ、寝てるこっちゃね」と言って出掛けた。


ノブちゃんから届いた画像
こういう場合は、日頃から病弱な妻の方が強い。先月来、大阪と奈良へ二度ずつ、あと神戸、名古屋など車の日帰りを続けたので、ぼちぼち体調に歪みが出て来る気がしてはいたのである。予感が悪寒になったわけだ。まあしかし、まだ食欲が標準並みなので1日休めば復活するだろう。昨日、長野にいる従姉のノブちゃんから林檎の樹の写メールが届いた。それを見ていると、何だか元気が湧いてくるような勤労感謝の日である。

私のジャズ(99)

史上最強のコンボ その三
松澤 龍一

ジョン・コルトレーン












マイルスの元を離れたジョン・コルトレーンは、一時期、セロニアス・モンクのコンボに参加する。「ファイブスポット」(ニューヨークのジャズクラブ)での伝説的なライブで彼のシーツオブサウンズと呼ばれる独特なスタイルを確立したと言われる。アトランチックレコードへの臨時編成のコンボでのリーダーアルバムを数枚吹き込み、その後、恒久的なコンボを編成する。

メンバーはテナーサックス、ソプラノサックスのジョン・コルトレーンにピアノのマッコイ・タイナー、ベースのレジー・ワークマン(その後ジミー・ギャリソン)、そしてドラムスがエルヴィン・ジョーンズのカルテットである。このコンボを史上最強のコンボに挙げたい。主な録音はインパルスレコードに残されているが、変貌するジョン・コルトレーンを余すところ無く捕らえている。

当時新進気鋭のドラマーであったエルヴィン・ジョーンズとのコラボレーションが素晴らしい。エルヴィン・ジョーンズのポリフォニックなドラムスにコルトレーンの細かな音符をどんどんと積み重ねてゆく奏法が実に良くマッチしている。
ソプラノサックスをモダンジャズの楽器として定着させたコルトレーンの功績も忘れてはならない。それまでにスイングジャズ期のシドニー・べシェやモダンジャズになってからもスティーヴ・レイシーなど、ソプラノサックスを吹くプレヤーはいるにはいたが、コルトレーンほどこの楽器で多くの名演をなしえたプレヤーいないはずだ。コルトレーンがあまりに偉大だったためか、コルトレーン亡き後、ソプラノサックスを吹くプレヤーがあまり出ていない。

インパルスに残された「ヴィレッジヴァンガード」(ニューヨークのジャズクラブ)のライブから、「朝日のようにさわやかに」(Softly As In A Morning Sunrise)を聴いてみよう。最初、少し長めのピアノによるテーマの提示とソロが続く。バックのエルヴィン・ジョーンズのブラッシュワークが素晴らしい。元々、エルヴィン・ジョーンズのブラッシュワークは定評があったが、改めて聴いてもそのリズム感、切れに感動する。

コルトレーンのソプラノサックスのソロが始まる。エルヴィン・ジョーンズはブラッシュをスティックに持ち替えコルトレーンをサポートする。実にスリリングだ。元来、この曲はシグマン・ロンバーグが作曲し、オスカー・ハマースタイン2世が作詞したミュージカルの甘い恋歌である。それをこれほどまでに生き生きとしたジャズに作り変えてしまう。やはりこのコンボはモダンジャズ史上最強のコンボに挙げても良いだろう。