2012年7月22日日曜日

2012年7月22日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(81)
            山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(78)
            内山 思考    読む

■ 私のジャズ(81)        
            松澤 龍一    読む

金子兜太 全句講評講座記録
            事業部      読む

俳枕 江戸から東京へ(81)

愛宕山の周辺(その3)栄閑院猿寺
文:山尾かづひろ 

猿寺の高麗門













都区次(とくじ): 西久保八幡のつぎは杉田玄白の墓のある栄閑院猿寺(えいかんいん・さるでら)へ行きましょう。
江戸璃(えどり): それでは国道1号の桜田通りを渡って東へ行くわよ。
都区次: 見えてきた冠木門がそうですね。
江戸璃:この門が味があってね、私は好きなのよ。遠目には冠木門だけれど、控柱があって、本柱をつなぐ貫に屋根があって、高麗門の形式になっているのよ。この寺のメインは杉田玄白の墓だけれど、彼の業績については「解体新書」で有名すぎるぐらい有名だから、私が今さら言うことはないわね。

青銅の高麗門に梅雨雫 大森久実

都区次:猿寺とは変わった名前ですが、どういう訳ですか?
江戸璃: 寛永(1624~44)のころ猿回しの泥棒が住職に改心させられ、猿を寺に預けて諸国行脚に出てね。猿が人にかわいがられたことからそう呼ばれたそうよ。

杉田玄白の墓












雲の峰玄白が墓ずんぐりと 長屋璃子(ながやるりこ)
玄白の功績思ふ梅雨晴間 山尾かづひろ

尾鷲歳時記(78)

梅雨があけて
内山思考


胡瓜揉み少し水掻きらしきもの  思考

木の上に寝ないと
虫が這う




















尾鷲の梅雨があけた。あけたらあけたで暑い暑い。そんな中、天気になるのを待ちかねていた炭焼きの親方と、山へウバメガシを伐りだしに行った。ニュースでは連日、熱中症の話題が取り上げられている。梅雨あけが発表された日、炭窯のある山の麓のテニスコートで女子学生たちが集団で熱中症になり、救急車が出動して大騒ぎだった(僕はいなかった)そうだ。全員、症状は軽かったようで一安心である。

さて、僕たちは車で一時間ほどの山中に到着すると、リュックを背負って喘ぎ喘ぎ休み休み山腹へ向かった。もうそれだけで一仕事だ。チェーンソーを使っての伐採は、伐れば伐るほど木陰が無くなる訳だから太陽がこれでもかと強い日差しを投げ下ろしてくる。

蝉もやたらに元気だし風も気まぐれにしか吹いてくれない。時間と共に身体から水分が汗と蒸気になってどんどん出て行くのがわかる。もちろんそれは承知の上で、2リットルの麦茶のペットボトルと小さなポットに入れた熱い茶を用意はしている。熱い緑茶は一口啜ると口がさっぱりするのだ。

例によって昼食は10時、暑かろうがどうしようが二合飯の弁当は完食、おやつのドーナツも食べた後は伐った木の上で三尺寝である。脳みそが煮えかけてへろへろになった帰り道、販売機で買ったコーラの美味さと言ったらもう甘露以外の何物でもなかった。

夕食のおかずは胡瓜揉み、胡瓜のどぶ漬けにゴーヤチャンプルーのてんこ盛りだ。これを丸ごと平らげればまた明日も頑張れる。ハハハ。チャンプルーに入れるランチョンミート(スパム)はいつも俳句仲間のS子さんが僕の好きなサロンパス味のドリンク「ルートビア」と一緒にどっさり送ってくれる。
沖縄から届いた新聞

彼女は「こんなのでいいんですか?」といつも電話口で笑うけれど、こちらではどこを探しても見当たらない代物だからとても嬉しい。で僕がもう一つ楽しみなのが宅急便のダンボールの詰め物にしてある「琉球新報」「沖縄タイムス」などの沖縄の新聞である。6月23日(慰霊の日)のものはわざわ
ざ送って貰って隅から隅まで読んだ。

私のジャズ(81)

祭だ!
松澤 龍一

今年もまた野田にお祭りが来た。愛宕睦会の一員として神輿を担ぐ。今年も担いだ。年々、担ぐ距離が短くなる。途中でへばる。ビールが飲みたくなる。飲むと地べたに座り込む。一旦、座ってしまったら、もう担ぐ気にならない。アルコール(お神酒)の混ざった脳にお神輿の喧騒が快い興奮をもたらす。産土神と一体になる。お神輿の囃子言葉で「ワッショイ」がある。「和を背負う」が語源と言われているが、韓国語の「ワッソ」(来た)だとの説もある。「ワッソ」の方がロマンがある。朝鮮半島から渡って来た人たちが、お神輿に「来た、来た、神が来た」と囃している方が面白い。

ドン・チェリー、オーネット・コールマンの The Shape of Jazz To Come  と言う衝撃的なアルバムで登場したバリバリの前衛コルネット奏者である。その後、ジョン・コルトレーンやアルバート・アイラーと共演したり、自分のコンボも結成したりして、数々の斬新な作品を発表し続けていた。純粋のニグロでは無く、インディアンの血が混ざっていると記憶しているが確かでは無い。でも、バリのガメランと共演した Eternal Rhythm  と言う名盤などを聴くと、どうしても東洋系の血を感じてしまう。

この音源の演奏など全く東洋的だ。東洋的と言うより日本的と言った方が良いかも知れない。おかめひょっとこが踊り出てきそうだ。エド・ブラックウェルのドラムは誰が聴いても祭囃子の太鼓と鐘である。この演奏の入っているアルバムは "mu" と題されている。当然、「無」のことに違いない。ジャズとはブルースの器楽化、都市化と自分なりに定義をしてきたが、このように、それぞれの人が持っている音調やリズムの原体のようなもの、時にはフォークロアであったり、童歌であったり、そう言ったものをベースにしたものもジャズと言って良いような気がしてきた。




金子兜太 全句講評講座記録

開催日時  平成24年6月16日(土)
主催:現代俳句協会 於・東京都中小企業会館

(記録 事業部委員 田中 悦子)




当日は生憎の雨の中、27名の参加者を得て開催されました。初めに金子兜太名誉会長の「現代俳句協会にこんなにたくさんの若い人がいたとは驚いた」という趣旨のご挨拶がありました。最終行の2句は当日会場から提出された小学生の作品です。

 
    柿若葉針穴に糸通りけり       杉山 よし江

中年以降の女性の句?付き過ぎ。二物配合の句。新鮮さにかける。
   
    死に行くときも焼きいもをさはつた手  宮本 佳世乃
些末主義。焼き芋に対する感覚のこまかい事に拘りすぎ。


    逃げ水や極楽まではまだ遠く     石川 理恵
二物衝撃の典型的な句。


入選   風へ浮き日へ沈みたる椿かな  坂西 敦子
沈みたるが柔軟。椿を替えた方が・・・


秀逸  いつも友だち白夜を知つてゐる犬と  小川 楓子
発想が面白い。感覚の奧が深い。


秀逸  その池は三日月映さぬという    近藤 真由美
三日月の後に「を」を入れた方が良い。


    人通り戻り銀座の夜の秋       中本 真人
「減る」でなく戻るとしたのは良かったが、下五の季語が平凡。

入選  ごきぶりの躓くことを知らぬなり   酒井 俊祐
一種の才能を感じた。ごきぶりが躓くという発想は今までにない若さがある。


佳作  見開きて見切れてなほも薔薇あり   松永 みよこ
軽く存在するものと自分との出合い。


秀逸  蛍来よ彼女の読書妨げよ       野口 る理
「妨げよ」で若さがでた、素直さが良い。


秀逸  鐘あれば撞く 万朶の春逝けり    田中 悦子
自由な発想。一字アケの技術が上手い。


入選  鯉に恋乞ひてみやうか四月馬鹿    なつ はづき
同音異義語を並べて、これだけのレトリックを使えること。言葉遊びの面白さ。


佳作  春風駘蕩子供は靴を脱ぎたがる    田口 茉於
即興の面白さ、季語が付き過ぎ。


入選  タバスコをたっぷりふりかけて素足  菊池 麻美
下五が上手い。若い女性の感覚。下五「素足」の前を一字アケにしても。


    爛春のからだは紙の泥にまみれ    中村 安伸
意味は無く感覚的な句。始めは面白いと思ったがマンネリ、季語を変えたら面白くなるのでは。

  
    ポラリスや確かに男体山眠る     五島 髙資
「確かに」の言葉が効いてない。ポラリスは中距離弾道弾のことか、北極星のことか判らない。北極星のことなら新鮮味に欠ける。ひねり過ぎ。


入選  プラットホームの端を見に行く啄木忌  松尾 清隆
季語が合うかどうかは好みが分かれるところ。秀逸にするか迷った。


入選  掴まれて自由な腕花の冷       髙勢 祥子
捉え方が上手いが、季語にもう少し工夫が欲しい。


入選  月のものスルリと出れば弥生かな   金子 泉美
こういうことを自由に書けるのは表彰もの。けれどこういう作品ばかりが続くと
がられる。

入選  春の闇詰める水玉のペンケース   千葉 由穂
感覚は冴えているが、水玉が曖昧。ペンケースの柄が水玉だったとしたら平凡。中
七「る」を取った方がよい。
  
    春満月映す高層ビルの窓       伊藤 沙智
上五にもう少し工夫が欲しい。

  
    暖国の珊瑚に人に真白の骨      橋本  直
ゴチャゴチャしている感じがする。いっそ上五中七の助詞を「暖国も珊瑚も人
も」と全部「も」にしたらどうか。

佳作  風船を持たぬ右手も湿りたる     矢野 玲奈
「右手」がくどい。


秀逸  接吻といふ字楽しもバードウィーク  後藤  章
発想が良い。季語の見本のような句。


秀逸  ランドセルストーブの香を持ち帰る   遠藤 寛子
こんな句に出合ったことがない。こういうことを一句にする自由。


秀逸  葉脈のふてぶてしさも柏餅      栗原 和子
大人の句。

   
    冬の月見ると心があたたまる     荒居 奈菜子
子供だと普通なら春の月とかにしてしまう。大人のようなひねり方。

  
    クリスマスオーケストラな料理たち  荒居 桃子
すごく感覚が良い。上五、「お正月」でも良いのかな。


以上