2014年12月7日日曜日

2014年12月7日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(205)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(202)

       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(205)

谷中(その14)
文:山尾かづひろ 

立善寺本堂









都区次(とくじ): 前回は谷中の観音寺でしたが、今回はどこですか?

懐手解いて閻魔像拝みけり   大森久実

江戸璃(えどり): 今回も大矢白星師が8月のお盆休みに谷中を歩いた分のトレースの続きなのよ。というわけで谷中の立善寺(りゅうぜんじ)へ行くわよ。立善寺は日蓮宗の寺院で、長興山と号するのよ。立善寺は、長興院日栄聖人(正保3年1646年寂)が開基となって創建されたそうよ。当所両国矢倉町にあったのが、元和8年に下谷金杉村に一宇を建立、明暦2年下谷御切手町へ移転、替地を受領できず難渋していたところ、茂原妙光寺日俊上人より谷中に297坪を譲り受けることができ、替地として378坪を受領して再建されたそうよ。
都区次:この立善寺は失礼ながら相当の紆余曲折を経て谷中へ移ってきているのですが、寺宝などはあるのですか?
江戸璃:台東区登載文化財になっている木造閻魔王坐像がちゃんとあるのよ。この閻魔王坐像は、高さ約49センチメートル。ヒノキ材を用いて、寄木(よせぎ)造りという技法で造られているのよ。顔は、眉毛を上げ、目は下方を睨み、口を大きく開いたさまで、亡者を恫喝する忿怒(ふんぬ)の相を表現しているのよ。像の底部に記された銘文によって、さまざまなことが判るのよ。作者は仏師・田中形部済時(たなかぎょうぶなりとき)で、天和3年(1683)閏(うるう)5月7日の制作だそうよ。法明院という人物が、同年2月26日に亡くなった孫・教生院善心の供養を思い立ち、教生院の両親・浅野氏夫妻が施主となり、造立したものだそうよ。本像については、文政12年(1829)編集の御府内備考 続編立善寺の項にも記されており、当時、すでに立善寺に納められていたことは確実なのよ。しかし、閻魔王像を安置する日蓮宗寺院は少なくて、立善寺所蔵の記録類には銘文中の法名がまったく見えないので、本像は文政12年までに他の寺院から移されたものであると推定できるそうよ。江戸時代の仏像彫刻は、一部をのぞき定型化した像が多くなるけれど、本像は忿怒の形相、道服の表現などに高い彫技を看取することができるわね。その上、銘文により作者・製作年代・制作目的が明らかであるため、江戸の彫刻美術や閻魔信仰の様相を考える上で、貴重な遺品のひとつとなっているそうよ。

木造閻魔王坐像













木枯しや風の遊びのひとつとも 長屋璃子
寺庭の有象無象も枯れにけり  山尾かづひろ

尾鷲歳時記(202)

柚子と日向ぼこ
内山思考 

ダムの背に水圧静かなる師走  思考 

柚子いっぱい








来年結婚する息子が市内に家を借りた。彼は仕事で日中いないので、電気や水道の工事をする人が来る時だけ、鍵を開けがてら恵子と留守番をするようになった。そこは南向きの二階屋で、前に遮るものがなくとても日当たりがいい。しかも車道に遠くて静かな環境だ。尾鷲市の北、天狗倉山(てんぐらさん)の麓にある内山家の場合は、前方の小さな寺山に陽が早く入るので、冬場のんびりとお天道さんを愛でることは出来ない。その代わり台風の雨や風が強く当たらない利点もあるのだが・・・・・。

寒さに弱い僕たちは、庭に面した大きな窓の内側で、トドかアザラシのように寝そべって工事屋さんの仕事の音を聞いているのが仕事。「ぬくとい(暖かい)なあ、お父さん」と恵子。「そうやなあ」と相づちを打ちながら僕はケータイを使ってのいつもの原稿打ち。「帰りにユズ貰(もろ)てこかお父さん」「うん」。庭の隅に低いユズの木があり黄色い実がいっぱいなっているのである。やがて、終わりましたと作業服のお兄さんが去り、僕たちも帰宅することにした。恵子はユズを三個もいでポケットに入れた。

帰ってからの僕の仕事は年賀状書きである。実は今年は一枚だけ仕上げて、それを百枚プリントしようと考えたのだが、業者に問い合わせたところ結構な出費になることがわかった。それならやっぱり全部手書きにしようと思い直して、来年の干支のヒツジを一匹づつ描く決心をしたのである。

これでヒツジ30匹
思えば昨年末も今年のウマを鼻息も荒く百頭仕上げたものだ。一筆書きのような単純な線で、一匹一匹描いていると、途中でヒツジというよりブタに似ている気がし始めたがめげずに、やっと百匹目を完成。あとは宛名書きを残すばかりにして、次は御飯を炊く用意にかかった。おかずは青木家から連絡が入り次第差し入れの豚汁を頂戴にうかがう手筈になっている。誠に有り難いことで、あとは娘の弥生が帰ってから何か作ってくれる筈の師走某日である。