2014年3月9日日曜日

2014年3月9日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(166)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(163)

       内山 思考    読む

江戸から東京へ(166)

山手線・日暮里(その66)
根岸(上根岸83番地の家(48)「子規庵」)
文:山尾かづひろ 

永久寺











都区次(とくじ):前回は三崎(さんさき)坂の大円寺でしたが、今日はどこへ案内してくれますか?

魯文の墓風化の進み凍返る 冠城喜代子

江戸璃(えどり):今回も大矢白星師に案内してもらった三崎坂の寺で永久寺へ行くわよ。ここには幕末から明治へかけての戯作者、仮名垣魯文(かながきろぶん)の墓があるのよ。墓石には聖観音を線刻した板碑が貼られ「かながきろぶむ」と書かれた石柱が置かれているわよ。魯文は高橋お伝を題材にした「高橋阿伝夜叉譚(やしゃものがたり)」で名を挙げたのよ。また、猫好きの魯文にちなむ「山猫めおと塚」があるのよ。高さ約1.3mの自然石で、明治14年10月に建てられたのね。魯文は、親友の榎本武揚(えのもとたけあき)からもらった山猫雌雄が死んでしまったときに、この塚を建ててね。塚の文字は、太政官記事御用の「東京日日新聞」の主筆であった福地桜痴が引き受けたのよ。

都区次:日が暮れてきましたが今日はどうしますか?

江戸璃:明日、お雛さまを納めた後、紅茶で一服するから、谷中のイナムラショウゾウでフランス菓子を買って行きたいのよ。付き合ってよ。その後そのまま帰るのも味気ないから秋葉原の居酒屋の「赤津加」で熱燗を飲んで行こうよ。寒いしね
都区次:いいですね。

仮名垣魯文の墓














雛納めして空間の虚しかり  長屋璃子(ながやるりこ)
冴返る苔の匂ひの寄せ仏  山尾かづひろ

尾鷲歳時記(163)

花菜たずねて
内山思考

道一本この春泥は避けられぬ    思考 

菜の花狩り、迷路、
菜の花ジェラート、コロッケ
もあった














青木夫妻と思考、恵子で一泊の旅に出掛けた。行き先は取りあえず愛知県蒲郡。朝8時に少しぐずつき気味の尾鷲を出発して、いつもの賑わいで走ること三時間余り、僕の運転するワンボックスカーはナビの(時に同乗三人の)指示通りに、ラグーナ蒲郡・ラグナシアに到着した。雨が冷たい。じつはパーク内で昨年から「ジブリがいっぱい 立体造形物展」が開催されていて、この日が最終日なのだ。

幼児から大人までファン層の広いスタジオジブリのイベントとあって、広い駐車場も一杯。僕たちは入場後、まずパスタ&チーズピザで腹拵えし、メインの展示館を目指した・・・が、なんと傘をさした長蛇の列がとぐろを巻いているではないか。結局、二時間あまり並んで拝観を果たし、4人でなければ諦めてたねなどと話し合った。

アベックの多くが、寒さなど気にする素振りも見せず笑い合っている姿に感動(嫉妬)を覚え

春雨や熱源として男女あり  思考

の自作を思い出したりもした。その夜は旅館の温泉でゆっくり身体をほぐし美味珍味で舌をとろかし、翌朝、快晴の渥美半島を海沿いに快走快走。やがて「わあ凄い」「きれい」の声と同時に大地が黄色に染まった。そこが第二の旅の目的地、菜の花ガーデンで、ただいま菜の花まつりの真っ最中なのだ。菜の花も(何度も菜の花の字を重ねてイメージを濃くする企み)これだけ集まると夢のよう。

離れゆく伊良湖岬
もしもこの世に目で見る薬があるとしたらこの風景だろうと僕は思った。それも「目薬」と呼ぶべきか。田舎の春といった感じの青臭い匂いに包まれて、一行はしばし陶然と時を過ごしたあと、眼底に滲む花菜の色を惜しみながら再び出発、車をなお西へ走らせた。途中、寄り道をして畑の中にある大きな風車(風力発電用)を見上げたりもした。近くにいるとゴーゴーとジェット音に似た響きが落ちてくるのも驚きだった。12時ちょうどに伊良湖岬に着くとグッドタイミング、鳥羽行きフェリーの出航は10分後であった。