2013年11月17日日曜日

2013年11月17日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(150)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(147)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(150)

山手線・日暮里(その50)
根岸(上根岸82番地の家(34)「子規庵」)
文:山尾かづひろ 

地蔵坂









都区次(とくじ):それにしても、この辺はお寺が多くて、ちょっと面白そうですね。案内してくれますか?

人呼んで谷根千界隈(やねせんかいわい)冬紅葉  大森久実

江戸璃(えどり):この辺は谷中、根津、千駄木の頭文字をとって「谷根千」と呼ぶのよ。前回は西日暮里駅から西日暮里公園を見たわね。今回は西日暮里公園から南に延びている諏訪台通りある浄光寺を訪ねるわよ。
都区次:それでは、また道灌山通りに出てすぐの歩道橋を行きますね?
江戸璃:訪ねるのが浄光寺で、浄光寺にある地蔵様の関係で地蔵坂と名の付けられた坂なので「こだわり」をもって今回は地蔵坂を行くわよ。坂に入るのには駅の東側に行くわよ。目印のNASスポーツプラザのビルに突き当ったら右に曲るわよ。そしてJRの線路を潜るわよ。
都区次:「諏訪坂ガード」と書いてありますがガードというよりはトンネルですね。地蔵坂ではなくて諏訪坂ではないのですか?
江戸璃:諏訪坂はJRが勝手に付けた名前よ。
都区次:昼間でも女性ひとりでは物騒な場所ですね。東京にこんな場所があったとは驚きです。トンネルを出ると線路沿いに階段状の坂が続いていますね。
江戸璃:地蔵坂を上り切った所が諏訪神社でこの辺の総鎮守なのよ。欅や銀杏の大樹が元久二年(一二〇五)創建という古さを物語っているわね。これから行く浄光寺は諏訪神社の別当寺なのよ。

諏訪神社










夕刊の届く十五時日の短 長屋璃子(ながやるりこ)
山茶花に夕日大きく立話 山尾かづひろ

尾鷲歳時記(147)

パンの記憶
内山思考
 
半熟の冬の太陽浮く朝餉  思考
 
わが家のトースター












子供の頃、実家にかぼちゃのような形をした鋳物(合金?)製のパン焼き器があった。上部が蓋になっていて、内側が放射状の幾つかの部屋に分かれている。その中に、メリケン粉と砂糖を混ぜ水で練ったものを入れてガスコンロで焼くと、ホカホカのおやつが出来上がるのである。僕は長い間、それを「おやつ製造機」だと思っていたが、実は戦後の物資配給時代の製品で、米の無い時、そんな風に小麦粉をパン状に焼いて食べていたのだとか。

このことは桑名に住む姉が教えてくれた。同じ材料をうどんのようにして食べたりもしたらしいが、「あなたたちは喜んで食べてくれたので有り難かった」と母が言っていたそうだ。僕はまったく覚えていない。

パンで一つ思い出すのは、娘がお気に入りだった絵本である。それは街で働く人々を描いた内容で、可愛い絵と共に「朝一番早いのはパン屋のおじさん・・・」という歌が載っていた。簡単な譜面もあったように思うが、よくわからないので、二人で適当に節をつけて歌ったものだ。でも本当はどんなメロディーだったのだろう。

パン屋さんと言えば最近、知人の奥さんが、桑名にとても美味しいかぼちゃのパンを焼く店があるはずだけど、お姉さん知らないかな、と僕に問うた。さっそく電話で聞いてみると、そのパン屋さんなら近くだから、今度来たときにでも一緒に行こうと姉。丁度、妻が名古屋の病院に行く用事があったので、泊まりがけで桑名にでかけることにした。そして翌日、尾鷲とは違ってずいぶん寒い朝を迎えた僕と妻は、姉の案内で閑静な住宅街にあるそのパン屋さんを訪れた。

この店のかぼちゃパンは最高
ドアを開けて明るい店内に入ると、焼きたてのパンの匂いとご夫婦の笑顔が優しく僕たちを迎えてくれた。光と香りのハーモニーが素敵な空間を作っている。ご主人のすすめてくれた椅子に腰掛けて、姉と妻が楽しそうにパンを選ぶのを眺めながら、僕は「朝一番早いのはパン屋のおじさん」の絵本と歌を思い出していた。