2014年4月13日日曜日

2014年4月13日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(171)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(168)

       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(171)

山手線・田町(その2)
文:山尾かづひろ 


宝生院本堂











都区次(とくじ):前回は三田台地の安全寺坂と蛇坂でしたが、今日はどこへ案内してくれますか?

本堂の土蔵造りに花万朶 畑中あや子

江戸璃(えどり):安全寺坂と蛇坂は標柱によると二つの坂になっているけれど一つの坂にみえるわね。今どき車の通らない見晴らしのよい坂は貴重よね。蛇坂を下って眼下の国道1号の桜田通りまで下りて宝生院へ行くわよ。このお寺は真言宗智山派の寺院でね、慶長16年(1611)八丁堀で創建され、その後、現在地に移されたそうよ。本堂は江戸時代の土蔵造りで寛政年間(1789~1801)のものだそうよ。明治8年(1875)境内に青山学院の前身となる寺子屋式の学校が開設されたそうね。宝生院は御府内八十八ヶ所第六十九番でね。本堂前には弘法大師遠忌碑があるわよ。御府内八十八ヶ所とは、弘法大師ゆかりの八十八ヶ所のお寺を、祈願のためにお参りする、東京版お遍路。有名な四国遍路(四国八十八ヶ所)を模して宝暦5年(1755)頃までに開創されたそうよ。御府内八十八ヶ所のお寺をお参りする人は、写経を寺院へ納め、その証明として御本尊の宝印(朱印)を納経帳(朱印帳)に押してもらうのね。お参りの記念にもなるけれど、仏さまの功徳を頂くという意味があるそうよ。
都区次:日が暮れてきましたが今日はどこへ行きますか?
江戸璃:今日も暑いわね。慶応仲通りのお寿司屋さんの「カレイのえんがわ」でビールが飲みたくなっちゃった。
都区次:いいですね。行きましょう。


弘法大師遠忌碑












陽炎や寺あまたなる三田台地 長屋璃子(ながやるりこ)
花時を灯して曲る仲通り    山尾かづひろ

尾鷲歳時記(168)

観音様と甘茶仏
内山思考

来ぬのかと思うていたと灌仏は   思考 


僕は鉄塔を擬仏化?
して見る癖がある















最近よく夢を見る。夜が明ける頃に一度目覚め、それから浅い眠りが続くから、そのまどろみが夢を呼ぶのであろう。たいていは着替えたり顔を洗ったりする内に忘れてしまうものだが、先日の夢は違った。僕が誰かの片脚にしがみついているのである。太ももを胸に抱いてその下肢を両足に挟んでいる。そしてとても安堵しているのだ。僕がときどき身じろぐと脚もそれに応えるように動いてくれる。ストーリーも何もなく内容はそれだけ、でも起き出した時の気分はとてもよかった。

妻のいる名古屋の病院へ向かう車中で、あれは一体誰の脚だったのだろうと考えた。豊かな母性は感じられたが母ではなかった。妻のような親しさもないがよそよそしくもなく、どこかエロティシズムを漂わせ、且つしなやかさと弾力性に富んだ脚。たしか黒いストッキングを履いていたっけ。まるで何とかフェチの世界やな、と一人で笑いながら高速道を疾走する内に、ふと、あれは観音様の脚だったんじゃないかとひらめいた。そうだ、それなら納得だと頷きながら僕はアクセルを少し強く踏んだのだった。


妙長寺の花御堂、奥に青木上人















春の夢観音の脚抱きしめて   思考

 翌日、尾鷲に帰って妙長寺へ用事に行くと、本堂の前に花御堂が設えてあり、奥から青木上人の読経が聞こえた。その日はお釈迦様の誕生日を祝う花祭り。手を合わせる僕を、小さなお釈迦様が「おい元気か」と見上げてくれているような気がした。