2015年8月16日日曜日

2015年8月16日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(241)
       山尾かづひろ  読む

■ 
尾鷲歳時記(238)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(241)

武州御岳山
文:山尾かづひろ 

ケーブルカー









江戸璃(えどり):やっと初秋という感じになったわね。
都区次(とくじ):前回は目黒自然教育園でしたが今回はどこですか?

邯鄲を聞く残り世のひと夜かな  戸田喜久子

江戸璃:邯鄲(かんたん)を聞きたくなったので、私の独断と偏見で武州御岳山(ぶしゅうみたけさん)へ行くわよ。

霧を飛ぶ鵤(いかる)一声三声かな  高田文吾
山を出て山へ沈む日胡麻の花    山本都風
邯鄲の枕辺近き御師の宿      内海よね女
邯鄲の鳴く音の闇に目をとじて   藤尾尾花
邯鄲の音にのぼりきし山の月    松本光生
邯鄲のフヒヨロと聞きルルと聞き  卜部一秋
邯鄲の一つに耳を澄ましをり    柳沢いわを

江戸璃:若い頃は大矢白星師の案内でケーブルカーがあっても使わないでJR五日市線の武蔵五日市駅からつるつる温泉行きのバスで白岩の滝入口へ行って、そこから日の出山をへて武州御岳山へと歩いて行ったのよ。

子をあやす庭涼しかり御師の宿  小川智子

江戸璃:今はJR青梅線の御嶽(みたけ)駅からバスで滝本へ行って、そこからケーブルカーで武州御岳山へ行くわよ。

喝入れて時を止めたる滝行者    高橋みどり
秋蝉の声に目覚めの御師の宿    白石文男
昼の虫夜具を積みあぐ御師の宿   近藤悦子
時鳥御嶽神社を独り占め      油井恭子
秋落暉武州御岳の空を染む     石坂晴夫
古瓦竜動き出す星月夜       甲斐太惠子

江戸璃:御岳山の上は涼しくてよかったわね。帰りもケーブルカーに乗って山を下りるわよ。


御師の宿









御師の宿客人発ちて昼の虫   長屋璃子
一岳に一診療所蓼の花     山尾かづひろ

尾鷲歳時記(238)

富士にあそべば 
内山思考

妻も我も蝉も笑うて今日も無事  思考

和船にも見える仏手柑の水差し









お盆を前にダイニングの模様替えを恵子と2人で大汗かいて完了、墓参りも済ませ少し暇が出来た。そこで最近、間が空いていた北斎の「冨嶽三十六景(46枚)」各十句に再び取り掛かることにした。この時だけは音楽無しで絵ハガキとにらめっこである。最初は何となく眺めているだけだが、取っ掛かりの一句が出来ると、あとは芋づる式にゾロゾロと。所要時間は十句約六十分。

普段は集中力などという言葉に縁のない僕も、この時ばかりは空想の世界に没頭する。それだけ素材(北斎画)がすぐれている証拠でもあろう。季節がわかれば有季、定型以外特にこだわらずが思考ルール。次の三十句で46分の38景を終え、残りは8景となった。全部詠んでしまったらきっと寂しくなると思う。新たな目標は今のところ決まっていない。

富士には見えないが秘蔵の山形石










「遠江山中」

 勿体無やこれほどの木を板に挽く
歯目摩羅の衰えつつも目立てかな
無為ならず火を不二を守る一仕事
大鋸屑(おがくず)の張り付く汗の身を反らせ
刀より木挽の鋸に生まれたし
落ち着かぬ様に足場の下の不二
稚児の眼に男大きく働けり
良材を待つはどちらの寺屋敷
木の質(タチ)を宥めつつ挽く里匠
それぞれの筵三尺寝の供に


「常州牛堀」

朝富士や苫舟の尾の磐隠れ
白鷺の二羽立ちて早や下りごころ
語りつつ男米浙(か)す荒々し
船縁や研ぎ汁捨てて鷺立たす
船乗りや空疑わず荷をさらす
声高の今日の段取り不二も聞く
柄の長き淦汲(あかくみ)揺るる舳かな
浮き舟の炊(かし)き朝餉の汁の実は
起き抜けの一瞥あとは不二忘れ
不二は雪衣 苫衣は舟で

「上総の海路」

江戸前や不二へ胸はる帆が二つ
風神の機嫌よき日の追風(おいて)かな
順風や帆綱の力余すなく
甲板に揺れつつ碇休むなり
荷はさほど重からず船並進す
他の船も見えねばしばし船中派
風へ吹く梅干しの種波へ消ゆ
大気圏白く江戸船ひた走る
水平線北斎は知る地動説
乾坤に帆柱立てて沖暮らし

 (以上)