文:山尾かづひろ
挿絵:矢野さとし
旧古川庭園 |
江戸璃(えどり):前現代俳句協会々長の宇多喜代子先生の御著書「新版 里山歳時記」の第3章「秋から冬へ」には先生の子供時代、里芋の収穫時季に樽と棒による皮剥きが先生の仕事の一つとしてあった、という興味深い一節があるのね。という訳で野木桃花師は里山の風景をよく残した横浜市の「舞岡ふるさと村」に立冬直前の景色を拾って、宇多先生の世界を垣間見ようと出掛けたわけ。
残る虫忘れないでと言ひたげに 浜野 杏
ふかふかの山陰ゲ石蕗の花明り 砂川ハルエ
行く先を大樹にゆだね蔦紅葉 平井伊佐子
色鳥や木の間の闇を騒がしく 油井恭子
あの奥に農家の暮し秋深む 大木典子
カラカラと茶の実遊ばす掌 乗松トシ子
せせらぎに色をこぼして照紅葉 白石文男
花芒これから飛ぶと風に伝げ 清水多加子
荻の風カッパの像を通りすぎ 緑川みどり
とりあへずここに咲きます花芒 甲斐太惠子
土手一面光と遊ぶ赤のまま 宮崎和子
虫喰ひに生命の証柿紅葉 金井玲子
赤の衣に疲労困憊烏瓜 山尾かづひろ
リス跳んで晩秋の黙解き放つ 野木桃花
都区次(とくじ):前回は江戸川区の小松川・境川親水公園でしたが、今回はどこですか?
江戸璃:冬薔薇と洋館に己が琴線が触れたらどうなるか篤と見てみたいので、私の独断と偏見で東京都北区の旧古川庭園へ行くわよ。
冬空に置き忘れられ飛行船 戸田喜久子
水覆ふ櫨より紅葉始まりぬ 柳沢いわを
散りもみぢ呑みては吐ける池の鯉 福田敏子
石蕗の花園散策の道標 石坂晴夫
洋と和の庭園並び冬に入る 白石文男
薄紅葉昼の灯点す黒館 近藤悦子
旧邸の隅を彩る石蕗の花 油井恭子
行く人や帰り来る人冬の薔薇 甲斐太惠子
冬紅葉園の水面に紅うつす 石坂晴夫
大正の面影残し冬館 白石文男
江戸璃:アクセスだけれど山手線の駒込駅から徒歩10分ほどよ。
冬薔薇や古き館の幾星霜 長屋璃子
エリザベス風格胸に冬の薔薇 山尾かづひろ