松澤龍一
CD(Black Lion BLCD760121)より |
唸る、唸る。バド・パウエルは唸る。天才ビーバップピアニスト、パーカーをピアノで演じた最初のピアニスト、バド・パウエル。彼の42年という生涯の大半は麻薬と精神病に悩まされたものだと云う。これらから逃れるために、パリに渡り、一時期当地に住み、病も小康を得た。その時期に吹き込まれた演奏がブラック・ライオンというレコード会社から出された「Solt Peanuts」と題されたアルバムに残されている。フランスのパトロンの借りてくれたノルマンジーのペンションで数十人の支持者の前で演奏したもので、私家録音のため録音は悪い。さらにピアノも調律がまずく、音が外れる。バド・パウエルの指も思うように動かない。全曲を通じて聞こえてくるものは、唸り声である。バド・パウエルは唸り、呻き、思うように動かない指で鍵盤をたたく。名演でもなければ、名盤でもない。訴えてくるものはバド・パウエルと云う麻薬に侵され、心の病を負った一人の黒人の心の呻きである。
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追加掲載(120104)
この日は調子が良かったようだ。指が良く動く。唸りは少ない。