2012年1月15日日曜日

尾鷲歳時記(51)

寒の一日
内山思考

水桶に龍が棲むなり薄氷 思考 

水餅
杵と臼で搗いてある












今朝はよく冷え込んだ。 いつもなら思考、娘、息子、妻の順番で仕事に出掛けるのだが、今日は僕の予定が無いので、他の三人がそれぞれに湯を入れたペットボトルを持って出て行った。 湯を何に使うかと言うと、凍った車のフロントガラスにそれをかけて氷を溶かさないと前が見えないのだ。朝、洗濯機のスイッチを入れるのは妻の役目で、干したり取り入れたりするのは僕の仕事。それはまだ後のことなので、ここからは一応、自分の時間である。

まずストーブで暖めておいた部屋に入り、ゆっくり新聞を読む。基本的に朝食は食べない。水か薄いコーヒーを飲む程度である。夕食より朝食重視、など諸説あるようだが、要は、本人の調子が良ければそれでいいのではなかろうか。人間の体はそれほどヤワではない、と僕は考えている。

規則正しいほうが生活パターンが決めやすいだけで、別に、腹が減った時に満腹にしておく、という動物スタイルでもオーケーなような気がする。ただし、誰にもそれは強制しない。 昼まで新聞小説「怪談屋妖子」を書く。いつの間にか主人公に情が移って、別れたくない気持ちになったが、そうも言っていられず、最終的なストーリーをどうするか今、悩んでいるところである。

昼食は、水餅三種(白、蓬、栃)を焼いて熱い茶で。これは正月、十津川の従兄に貰ったものが少し黴びて来たので、水に浸けて置いたのだ。栃餅は、灰汁だしにかなりの手間がかかるため、貴重な食べ物だ。幼い頃、祖父がこの餅を好み、「お前たち(孫)にこの味はわからん」といって、なかなか食べさせてくれなかった。確かに大人向きの風味かも知れない。
そまがつお
片身は白焼き、一方は溜まり漬けに
午後、隣のハルオ(同名)さんから電話があり、「ハルオさんか?ワシ、となりのハルオやけど」「あ、ハルオさん」「そま食わんかい?」そま、とは「宗太鰹(そうだがつお)」のことである。夕食のおかずが出来た、と僕は下駄をカラコロ鳴らしながら喜んで取りに行った。