2012年6月3日日曜日

私のジャズ(74)

唄う、うめく、叫ぶ...踊る
松澤 龍一 
 STILL LIVE (EMC POCJ-2416/7)












チャールス・ロイド、懐かしい名だ。60年代に突如、ジャズ・シーンに登場した。「フォレスト・フラワー」と言うアルバムが随分とヒットした。あの当時、どこのジャズ喫茶に行っても、必ずと言っていいほどこのアルバムがかかった。正直言って、どうも好きになれなかったプレーヤーの一人だ。はっきり言えば嫌いだった。プレーにピリッとしたものが感じられない。何となくイメージが茫羊としてつかみどころが無い。しばらくしてジャズ・シーンから消えてしまった。80年代に復活したと聞くが、あまりぱっとしない。

こんなチャールス・ロイドでも、ジャズには大きな貢献をしている。それは彼のグループに参加したサイドメンである。ベースのセシル・マクビー、ドラムのジャック・ディジョネット、そしてピアノのキース・ジャレットの面々である。恐らくチャールス・ロイドのグループへの参加が彼らのジャズ・シーンへのデビューだと思う。すると、チャールス・ロイドは自身のプレーヤーとしての資質よりも、新人を発掘する目の確かさで評価をすべきなのかも知れぬ。このタイプのプレーヤーにアート・ブレキーも入る。彼はドラマーとしてより、名プロデューサーだと思う。ウェイン・ショ―タ―もリー・モーガンもフレディ・ハバードもウィントン・マルサリスも、みんなアート・ブレキーに見出されている。記憶が正しいとすれば、キース・ジャレットのライバル、チック・コリアを見出したのもアート・ブレーキーだ。

キース・ジャレット、好きなピアニストの一人だ。ビル・エバンスにより甘ったるいムード・ミュージックに堕しそうになったジャズ・ピアノに、新しい感覚のビートとスリルを復活させた。ドラムのジャック・ディジョネット、ベースのゲイリー・ピーコックのトリオによる演奏を聴くと、キース・ジャレットはピアノを弾きながら、良く唄う、うめく、叫ぶ。映像を見て分かったことは、さらに踊ると言うことだ。ピアノに座っていない。立ちあがって踊りながらピアノを弾いている。そこにジャック・ディジョネットの柔らかいスティック・ワークが絡む。ジャズはやっぱり楽しい。