2013年9月22日日曜日

尾鷲歳時記(139)

一週間の出来事 
内山思考 

過去にのみ人の集まる法師蝉 思考

病院の窓に広がる名古屋の街
新幹線もよく見えた









先週末に義兄の三回忌があり、妻と共に桑名へ行った。最近、少し秋らしくなったと喜んでいたら何が何が、残暑の焼け木杭に火がついたような一日で、冷房の効いた室内を出てお墓に勢揃いした一同は汗だくになった。けれどもツクツクボーシの鳴く中、お坊さんは平然としておられる。暑さで煮えかけの脳に「汗ばまずからりとおわす老師かな」の句が浮かび、虚子だったかな?この猛暑は台風の影響かな?などなど考える。真新しい墓碑が鏡のように四面を映し出していて美しい。

しかし本当に優しい義兄だったのである。その笑顔を思い出すだけで僕の心は和むのだ。やがて線香の香りが辺りに漂い始めると、母と同じに若くして夫を失う事になった姉は、熱中症が心配だから幼い孫たちを日陰に連れて行け、としきりに息子夫婦に言うのだった。その夜は身内だけで湯の山温泉へ一泊、僕は都合四回(夕方、食後、深夜、早朝)大浴場へ通った。

長湯はしないが温泉は大好きなのである。明くる朝、僕だけ早立ちで西宮市へ向かったのは第三日曜日で風来の句会があるから。台風が本土に接近中なのが気になるが、今日は尾鷲ではなく桑名へ帰る予定だから、遅くならなければ大丈夫との判断である。そして句会を無事終了して西宮を出たのが午後5時、名神高速に乗って京都は桂川を越える頃、雨と風は激しさを徐々に増していた。
姉の大事な話し相手
ラム嬢
週が開けると今度は妻の入院の日が近づいた。名古屋の病院で大腸ポリープを除去してもらうのだ。良性で手術は簡単なものだとのことだから安心である。手術の前日に妻を入院させたあと、桑名に戻って姉と夕食を食べていると、妻からメールが入った。「お月さんみて見よい(見てご覧なさい)キレイやで」・・・ああ、そうや今夜は十五夜なんや。僕は熱い汁物で火傷した口中を水で冷ましながら、妻が高階の病室の窓から、一人で満月を見上げているところを想像したのであった。