2014年1月12日日曜日

尾鷲歳時記(155)

金の繭、銀の雫
内山思考

午年をもて生き様を牛歩とす  思考

オオゴマダラの輝くさなぎ








正月中は近くのマーケットに買い物に行く以外は、出歩かなかった。それでなくても交通量の多い那覇の周辺だ。年末年始ともなれば観光客帰省客の増加と共に車の数も増える。混雑するのを承知で慣れない土地を走り回る気にはなれなかった。でも新聞はとって無いし、年賀状は沖縄の住所を知る数人から来ただけ、尾鷲に届いた分はまとめて息子が送ってくれることになっているから、することといったらテレビを見るのと本を読むだけ。そののんびりを恵子と楽しむためにやってきたのだと割り切り、松の内が過ぎてからやっとヒロコさんを誘って遠出をした。

場所は本部町の「琉宮城蝶々園」である。美ら海水族館の近くだが案外知られていない。真冬だしそれほど期待してなかったが、デカい温室に入って驚いた。熱帯樹木のあいだをオオゴマダラ蝶が無数に乱舞しているのだ。赤色を好む習性があるそうで赤い造花にそれこそ花びらのようにとまっている。触れても逃げない。驚きはまだあった。オオゴマダラのさなぎは純金の光沢を持っているのである。自然界の摂理なのにそれを不自然と思うのは、人間の身勝手な錯覚に過ぎないのだろうか。

翌日はタカシさんと玉泉洞に出掛けた。二度目だが、全長5000㍍(公開は890㍍)の鍾乳洞もやはりミステリーゾーンであった。洞窟内の気温は21℃で暑からず寒からず、タカシさんはここが観光地になる前の調査の段階で、入洞した経験のある人だ。「真っ暗闇の中を腰まで水に浸かってね」狭い遊歩道を歩きながら記憶を辿るタカシさんと僕の側を、台湾人と思われる若い女性たちが賑やかにすり抜けて行く。

玉泉洞の鍾乳石は
百万本以上
数え切れない鍾乳石によって形作られる複雑な天地、そして永劫の時空を一瞬よぎる流星のような水滴。感慨深くはあるが地上は昼過ぎ、出口まで400メートルの標識を見るといよいよ空腹がつのる。そして考えたのは、己の身体の洞穴(胃袋)をいかにして満たすべきかということだった。