2011年5月15日日曜日

尾鷲歳時記(17)

伊勢路に住む
内山思考 


 いろいろな緑の中の新茶かな  思考 

馬越峠の尾鷲側登り口









妻とお茶を呑みながら、ずいぶん昔、一緒に万里の長城へ行った話をした。その頃、彼女は病後で、自分はとてもこんな急勾配は登れないから下で待っている、と言った。確かに八達嶺は見上げるような石積みの通路が延々と続く。賢明な判断だ。 僕は一人で他の観光客に紛れて歩き始めた。辺りに囀りのような大陸の言語が飛び交う。かなり高度をかせいだところで、呼吸を整えながら、ふと下を見ると、上り下りの人の中に見覚えの白い帽子があり、しかも這うように近づいて来るではないか。 妻は、折角ここまで来たのだから、と力を振り絞って僕のいる場所を目指していたのだった。途中、何人かの外国人が「大丈夫?」と、身振りで気遣ってくれたそうだ。

思い出話をしながら、そう言えば、今、自分たちが住んでいるのも、万里の長城と同じ世界遺産のエリアだな、それって凄いことだよね、などと笑い合った。「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産リストに登録されたのは平成16年7月だ。 尾鷲は熊野三山を東から辿る伊勢路のちょうど中ほどに位置する。僕のいる北浦町は熊野古道の人気スポット「馬越(まごせ)峠」のふもとだから週末ともなれば、ひと歩きして満足気な表情のハイカーがたくさん下りてくる。
熊野古道センター

旧道は北浦町を出て市内を南へ横切り、次の難所である八鬼山越えとなるのだが、その登り口の近くにあるのが「三重県立熊野古道センター」で、ここは総ヒノキ造り、古代建造物を思わせる重厚な雰囲気を持っている。 センター長・川端守(まもる)氏は文筆家で、地元の歴史に造詣が深いだけでなく、熊野の山々を熟知し、自らも山歩きのインストラクターとして精力的に活動する人物である。 休日に、氏の写真を、と奥様が経営する山麓(さんろく)喫茶へお邪魔すると、ご夫婦共々山登りにお出掛け、とのことで娘さん二人が店番をしており、僕はとても香りのいい珈琲を楽しんでから帰った。