2011年11月20日日曜日

尾鷲歳時記 (43)

歯のある話
内山思考

米を担ぎ冬の銀河を渡りけり  思考

近所の金剛寺の仁王さん












「カリカリ」「コリコリ」「バリバリ」「ボリボリ」 物を食べる時、歯ごたえもまた「味」のひとつだと言えよう。 食欲を無上の友として人生を過ごして来た割には、歯の管理があまりよくなく、徐々に、噛み締められる範囲が狭くなって、気がつけば利き顎?でない左側でほとんど咀嚼している。 もうその部分が駄目ならいろいろな珍味、ご馳走を思う存分味わえない、という恐怖にかられ、歯磨きの方法を変えることにした。

半世紀以上磨いていた歯を磨かず、歯茎を磨くようにしたのである。最初は痛くてゆっくりブラシを当てていたが、しばらくすると相当強く擦っても耐えられるようになった。今では結構歯の土台もしっかりしている。 しかし、世の中には歯の丈夫な人がいるもので、沖縄の友人S子さんは七十七才にして三十二本すべて揃っているそうだ。若々しい彼女は生まれてこのかた「歯痛」を経験したことがないというから本当に羨ましい。

でも、最初に沖縄に行った時、那覇の街を車で走っていて歯医者がとても多いのに気づいて、その事を運転手さんに言うと、 「それは黒砂糖を食べるから」「エエッ」「というのはウソです」などとやり取りをしたことがある。真相は如何に。 もう一人、八十八才の知人Gさんも驚くなかれすべて自分の歯だ。

尾鷲神社の狛犬
流石に近年、もろくなってヒビが入ったりすると語るが、まさに「歯の天才」と言うべきだろう。 ある時、僕も少しはあやかろう、と「Gさんのように丈夫な歯を保つには一体どうすればいいのですか?」 と聞くと、「磨かないことだね、ハハ」と笑った。これまた真相は如何に。 阿形の仁王様や狛犬の歯は健康そうでいつも見とれてしまう。