松澤 龍一
「美空ひばり 武道館ライブ」 (日本コロンビア COCA-13361~62) |
この前、あるところで飲んでいたら、「ジャズも良いけど、演歌も良いよね」との話になった。酔った勢いで、最後は「演歌は良い、本当に良い、演歌の心が分からんヤツとは付き合わん」との暴論にまでなってしまった。前回の油井正一さんのことを書いたブログで、「ラジオでクラッシックとジャズの対抗番組が組まれ、クラッシック側がマリア・カラスを出したとき、ジャズ側はベッシー・スミスをぶつけた」ことを引用したが、さて演歌だったら誰をぶつけるか。答えは決まっている。誰が何と言おうと美空ひばりだ。マリア・カラスに対抗できるのは美空ひばり、ベッシー・スミスにも美空ひばりである。
上掲のCDはひばりの芸能生活35周年を記念して武道館で行ったコンサートを収録したもので、ひばり、44歳、円熟期の快演との評判の高いものである。昔、家の近くの神社に回転木馬が巡回して来たことがあった。木製のガタピシと廻る回転木馬に音割れのするスピーカー、そのスピーカーから流れて来たのが、「越後獅子の唄」だった。昭和生まれの者ならば、きっとその人生のどこかにひばりの唄が流れていたに違いない。
彼女の最後のコンサートは有名な「不死鳥コンサート」。これは音楽史上残る最も壮絶なコンサートである。すでに立つこともやっとだったひばりが前半後半合わせて2時間余りのステージを歌いっぱなしに歌う。一曲目は「悲しき口笛」で始まり、最後は「人生一路」で終わるが、顕かに「人生一路」を唄うひばりの顔には死相が漂う。
このコンサートの約1年後、平成の世が始まると同時に、偉大なる昭和のエンターテイナー、美空ひばりは永遠の眠りにつく。(「不死鳥コンサート」は厳密には最後のコンサートでは無いが、実質的には最後のものと言って良いだろう)
美空ひばりが生前、誉めた歌手が一人だけいた。ちあきなおみである。楽屋で通りすがりに、「あんた、歌、上手いわね」とちらっと言われたそうだ。確かに上手い。今、演歌を歌わせたら天下一品だろう。
私の愛聴曲である。
う~ん、今夜は酒が旨い。