内山思考
花すみれ私事として咲けり 思考
鰹節削り器 |
桑名の姉が、電気餅搗き器をくれると言うので取りに行って来た。僕の家では正月以外は餅を食べないし、その元旦の雑煮にしたところで市販品で間に合わすから、誰か欲しい人がいればあげてもいいか、と聞くとそれでもいいと言う。 丁度貰い手に心当たりがあって妻と二人で遊びがてら出掛けたわけである。「これもいらない?」 車のトランクへ餅搗き器を積み込んでいると、物置から姉が呼んだ。手に小さな木の箱を持っている。「ホラ、鰹節を削るやつ」 それを聞いて僕は「おう」と声を挙げた。実は以前から欲しいと思っていたのだ。
子供の頃、その型の道具で鰹節をシャカシャカと削り、醤油をかけて熱いご飯に乗せる、いわゆるネコまんまが大好きだったが、すでに削ってある手軽なパック詰めが出回るといつの間にかそちらが主になってしまったのである。風味より便利を選んでしまったわけで、気がつけば、あの木箱に鉋が裏向けに嵌め込まれているものは、遠い時代の遺物となっていたのだ。それが幸運にも手に入った。世界で一番堅い食べ物と言われる鰹節は、我が家の台所の引き出しに真空パックの物が二本眠っている。喜んで「鰹節削り」を家に持って帰り、蓋の裏に描かれた使用法のイラストを見て僕は首を傾げた。それには、鰹節を手前から向こうへ押して削る、とある。僕たち家族は向こうから手前へ引いて削っていた。
チェーンソーや製材機の 無い時代は全て人力 |
そう言えば、関東では押して、関西では引いて削る習慣があると聞いたような気もする。それが事実なら何故そうなったのだろう。刄がこちらを向いているのは危険ではないのか。因みに鑢(ヤスリ)は全て押しだ。しかし、ノコギリは西洋では押して切るような形状らしい。一度、木を挽いているところを見てみたいものである。
もしも、日本のノコギリが押して切るものだったら、民謡の「木挽き唄」はもっと違うメロディーになったかも知れない。ともかく、押すのも引くのも、左右どちらの手でも出来るところがこの「鰹節削り器」の親しみ易さだ。大事にしたいと思っている。ところで、鰹節を「掻く」と言う表現もあることに今、気づいた。