2012年4月8日日曜日

俳枕 江戸から東京へ(66)

古川流域/三井倶楽部
文:山尾かづひろ 
三井倶楽部









都区次(とくじ): 今回は麻布十番を出発点として歩いてみたいと思います。
江戸璃(えどり): 地下鉄麻布十番駅の南麻布一丁目方面の出口から地上へ出て、二の橋の交差点に行くわよ。その二の橋で古川を渡るのよ。つまり古川によって三田台と麻布台は東西に分けられる地形となっているわけ。
都区次: 言ってみれば、どちらへ向っても坂道となるわけですね。
江戸璃: その通り。西へ行けば仙台坂で、東へ行けば日向坂(ヒュウガザカ)よ。坂下に毛利日向守の下屋敷があったことによるそうよ。永井荷風に「日和下駄」という東京散歩の一書があって、日向坂を次のように書いているわね。「二之橋の日向坂は、その麓を流れる新堀川(古川)の濁水とそれに架かった小橋と、斜に坂を蔽ふ一株の榎との配合が、自から絵になるやうに甚だ面白く出来てゐる」現在では古川の流れの上に首都高速2号線が架けられて、永井荷風の時代(大正初期)から見れば風情は失われちゃったわね。日向坂上へ出ると右側にオーストラリア大使館があって、続いて三井倶楽部。三井倶楽部は二コライ堂などで知られるイギリスの建築家ジョサイア・コンドルの設計によるバロック風の優美な洋館で、大正2年の完成だそうよ。この辺りは広大な武家屋敷だったので、その屋敷跡の一部である武家長屋が、三井倶楽部の塀沿いに残されているわよ。
武家長屋跡










行く先に西洋館のかぎろへる  長屋璃子(ながやるりこ)
残さるる武家長屋跡花の風  山尾かづひろ