2012年5月20日日曜日

私のジャズ(72)

エリック・ドルフィーは凄い
松澤 龍一

OUT THERE/ERIC DOLPHY
 (PRESTIGE/NEW JAZZ 8252)









エリック・ドルフィー、アルト・サックス、バス・クラリネット、フルートを操るマルチ奏者である。ロス・アンジェルス生まれの黒人。上掲のアルバムは彼がリーダーとなって吹き込んだ比較的初期のもの。ロン・カーターがベースでは無くチェロ奏者として参加をしている。

CDケースの絵(昔のレコード・ジャケット)が変わっている。メトロノームの上に浮かぶベースの舟、その上にチェロとシンバル、菅楽器を吹いているのはエリック・ドルフィーか。シュールレアリスムの絵のようだ。

エリック・ドルフィーはトランペットのブッカ―・リトルとのファイブ・スポットのライブ、コルトレーンとの共演、ブルー・ノートには「OUT TO LUNCH」、そして I don't know what love is  のフルートの演奏で知られる「LAST DATE」など数多くの名盤を残している。昔、随分と聴いたというより聴かされたが、もう一つ好きになれないプレーヤーだった。バス・クラリネットの音色もグロテスクすぎるし、フルートの中途半端な抒情も鼻に付いた。

このブログを書くに当たり、ユーチューブで彼の演奏を探してみた。凄い演奏に遭遇した。チャーリー・ミンガスと一緒にノールウェーのオスロでのライブ録音である。アルト・サックスでバリバリ吹いている。これは凄い。過去に発売されたレコードでこのような演奏が聴けないのは不幸としか言いようがない。この演奏を聴けばエリック・ドルフィーが歴史に残る、あるいは歴史を変えた偉大なるジャズ・プレーヤーであることが分かるだろう。

パーカーを超えたのはオーネット・コールマンでもなく、ジョン・コルトレーンでもなく、ことによったらエリック・ドルフィーだったのかも知れない。とにかくこの演奏は凄い。1964年のライブとある。彼はこの年にベルリンで客死する。