2012年7月8日日曜日

私のジャズ(79)

ロシア・中東欧ジャズーロシア編
松澤 龍一












早稲田大学ロシア文学会の春季公開講演会に出席した。演題は「ロシア・中東欧ジャズの魅力を語るーフォークロアから現代音楽まで」で、ロシア編を新潟大学の教授の鈴木正美氏、中東欧編を季刊『ジャズ批評』元編集長の岡島豊樹氏が担当された。映像と音源を駆使した講演で、とても面白かった。やはり、音楽についての講演では、実際の音が聴けるのは強みである。

中東欧編は次回に回し、今回はそのロシア編のさわりです。まず、レオニード・ウチョ―ソフ。オデッサ生まれのエンターテイメントとしてのジャズを確立した人で、面白いことを言っている。「ジャズの発祥の地はニューオリンズでは無くオデッサである」と。オデッサと言う都市は港町で多様な民族および彼らの民族音楽が混在しており、その中から自然発生的にジャズが生まれた。

そう言えば、ヨーロッパ大陸ほど多様な民族、人種に溢れたところは無い。アメリカもその比にならない。スラブ系、アーリア系、ラテン系、アジア系、アフリカ系...およそ地球上に存在するすべての人種がヨーロッパ大陸に存在している。その多様な民族を二カワのように結び付けているのがロマ(ジプシー)とジュー(ユダヤ人)であるらしい。なるほど、これならば、ニューオリンズで生まれたジャズのような新しい音楽形態がもっとダイナミックな形で生まれても不思議では無い。
ロシアで、このような新しい音楽を創造した人として、講演では、上述のレオニード・ウチョーソフ以外に、ヴァレンチン・バルナフ(ロシア最初のジャズ)、あのストラヴィンスキー(「民族」と「前衛」)、アレクサンドル・ツファスマン(ダンス音楽)、ガネーリン・トリオ(前衛ジャズ)、セルゲイ・クリョ―ヒン(パフォーマンス音楽)、ウラジミール・レジンツキイ(グループ「アルハンゲリスク」による祝祭的な音楽空間、ハプニング)等々を、映像、音源とともに紹介している。

これらの音源をユーチューブで捜したが、殆どの音源が揃っているユーチューブでも捜せなかった。そこで、比較的新しいモスクワ・アート・トリオの演奏を聴いてみよう。フォークロア・ジャズの白眉と講演では紹介された。トリオと言ってもジャズのピアノ、ベース、ドラムスの古典的な編成では無い。ピアノはあるが、ジャズではほとんど使われないホルン、民族系の管楽器、笛それに民謡調の唄と口笛、足踏み。Russian in China と言う曲だが、ガーシュインの「パリのアメリカ人」をもじったのだろうか。



次にアップテンポのもの。足踏みがビートを生み出している。