2013年6月16日日曜日

尾鷲歳時記(125)

バードランドの子守歌
内山思考

十薬や庭を見捨てしにはあらず  思考

灼熱の炭を掻き出す作業、
とにかく熱い









昨夜十二時から今朝の九時頃まで、備長炭の窯出し作業をしていたので、帰ってからひと寝入りふた寝入りしたといってもまだ朦朧としている。今、午後三時半。妻は三日ほど上京していて留守、子供たちもそれぞれ仕事で静かなものである。起きてはいても「子規座り」して庭を見ているだけ。本を読む元気なし、俳句的思考など論外である。ただラジカセから流れるオールドジャズを聴いているだけである。

アニタ・オデイの「ジョージア・オン・マイ・マインド」が終わり、曲は「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」に変わった。歌うはペギー・リー。心地よい疲れのすみずみにメロディーが揺蕩いながら沁みてゆく。僕の好きな時間の過ごし方である。少し手を伸ばして机の上のカップをとり、すっかり冷めたコーヒーをひとすすり・・・「にがっ」。やはりインスタントは熱さが命である。ふたたび庭の緑に目をやる。お隣の壁とのわずかなスペースにミヤマキリシマやらフジやらクリスマスローズやらドクダミやらが雨上がりの陽の光を浴びて輝いている。

扇風機と並んで
庭を見る
新緑は希望の色だと思う。雑草と呼ばれるものたちにも僕はそれを感じる。青とか緑は「後退色」といって背景に吸収されてしまう色で人の視線にも優しい。われわれが空や海の青、野山の緑に安らぎを覚えるのはそのためらしい。逆に赤、橙、黄色は浮き上がる「進出色」で注意を引く必要のある広告等にたくさん用いられるのはそのため。スズメ蜂も「近寄らないで」とあの色でサインを送っているのだとか。

カーメン・ランディの「バードランドの子守歌」が最後の曲だったので、CDを入れ換えて次はサラ・ヴォーン。このアルバムの最初も「バードランド」である。聴いているうちにまた眠くなってきた。が、このコラムだけは書いておきたい、と頭の中であちらこちらに凭れて休んでいる思考を揺すぶり起こして、何とか仕上げたからもう一度寝ます。御免。