2014年2月23日日曜日

尾鷲歳時記(161)

バチとツメ 
内山思考

珍しく庭にいる妻芽木の風   思考

山本さんの持っているバチ
右から檜、朴、欅









沖縄から帰って、やっとこちらの気候に慣れてきたと思ったら、待っていたぞとばかり冬将軍の残党?が大暴れ。全国的な寒波の余波は割と温暖なはずの東紀州にも影響を及ぼし、今でも大台の山並みは雪を輝かせている。先日、上阪する娘が乗り捨てた車を駅まで取りに行った。那覇の散策習慣があるから1、2キロは遠く感じない。めったに歩いて通る所では無いので、途中、木工所の展示が気になって店内を覗かせて貰った。

ご主人の山本さんは、昭和九年生まれだそうだがとても元気な人で、いろいろ話してくれた。昔から尾鷲のヒノキは、高温多雨の環境条件により目が詰まり木肌の美しい一級品として名高い。かつては建築用材としてはもとより、日常に使用する様々な物の素材としてヒノキは有効であった。しかし、その伝統も時代と共に流れ行こうとしているようだ。押し寿司の箱、風呂の腰掛け、短冊掛けなどの他に棚に太鼓のバチがたくさん立ててあった。

名曲「尾鷲節」の伴奏に尾鷲太鼓は欠かせない、当然バチは必需品だ。長さは規格のようだが材質は、最近ヒノキより朴の方が人気だという。理由は尾鷲節の場合、太鼓のカテ(縁)を叩くことが多いからだそうだ。擬音で表現すると「ドンカラカッカ」の 「カラカッカ」のところである。ただドンドン打つだけならヒノキでもええんやけど、とは後で聞いた太鼓名人の話である。バチは樫、ケヤキなどもあり曲によって替えることもあるという。技術を突き詰めると、素人にはわからぬ深い世界があるのだと思った。

水牛の角で出来た三線のツメとピック
及ぶべくもないが、少しだけそんな気持ちがわかる出来事があった。タカシさんに貰った三線を久しぶりに取り出して「安里屋ユンタ」を復習った時、いつもはギター用ピックを使うのだが、ふと思いついて一緒に貰った水牛の角で爪弾いた。すると驚くほど音色が変化したのである。例えるとしたら2Dと3Dの差か。三線奏者が親指程の水牛の角をツメとして使う訳がわかったような気がした。