2014年8月24日日曜日

俳枕 江戸から東京へ(190)

麻布十番(その2)
文:山尾かづひろ 


賢崇寺本堂









都区次(とくじ): 前回は麻布十番の大法寺でしたが、今日はどこですか?

鳳仙花爆ぜてしきりに胸さわぐ  小熊秀子

江戸璃(えどり):やはり13年ほど前に大矢白星師に連れて行ってもらった曹洞宗の賢崇寺へ行くわよ。
江戸璃:賢崇寺は寛永12年(1635)、鍋島藩初代藩主の鍋島勝茂が疱瘡で息子の鍋島忠直を亡くしたので弔いのため建立したのよ。当時、江戸府内では寺院の新立が禁じられていてね、川越の辺の地方氏族・仙波氏の菩提寺だった高輪正重寺を買収し、現在地に移すという手続きを取ったのよ。忠直の戒名「興国院殿敬英賢崇大居士」から興国山賢崇寺と号したわけ。本堂の裏手に回ると歴代藩主とその室はじめ、一族の墓の大きな五輪塔が立ち並び、他に殉死者の墓もあって都の史跡になっているわよ。白星師も多くの大名の墓域を見て歩いているそうだけれど、この鍋島家の墓域は壮観だと言っていたわね。こんな場所がこの辺りに残されているとは驚きよね。なお、二二六事件の結果、代々木原頭で銃殺刑に処せられた青年将校22名の墓や、父親が佐賀県出身だった象徴派詩人の蒲原有明の墓などがあるわよ。

都区次:日が暮れてきましたが今日はどうしますか?
江戸璃:麻布十番から都営地下鉄の大江戸線で帰るわよ。

鍋島藩歴代藩主の墓











月渡る寺も墓所も鈍色に   長屋璃子
落日の懐かしさあり鳳仙花  山尾かづひろ