2011年4月10日日曜日

尾鷲歳時記 (12)

民話のはなし
内山思考 

 チューリップ笑い崩れてしまいけり 思考 

トーテムポール









尾鷲市民文化会館(通称・せぎやまホール)の玄関前の広場にトーテムポールが立っている。高さ十メートル、直径一メートル、重さ一、六トンという大きなものだ。平成五年、この会館の完成記念として姉妹都市のカナダ・プリンスルパート市から寄贈された。

作者は現地の彫刻家ボブさん。 樹齢六百年のアカスギに、鷲、老人、熊などが抽象的に刻まれ、太平洋を見つめている。一説にはその視線のはるか向こうにカナダがあるらしい。まさに「海の彼方(カナダ?)」である。この彫刻は民話を元に作られていて、それは、疎んじられて人びとに置き去りにされた盲目の老人が、鷲や熊の運んでくれるサーモンで生き長らえ、結局、彼の造り貯めていたサーモンの燻製が飢饉の人びとを救ったという話である。動物との共存、分け隔てのない人間愛などを考えさせられる内容だ。

さて、民話といえば、尾鷲では僕の知る限りあまり愉快な話はない。そこで、じゃあ自分で作ってみようと思ったのが十数年前のこと、まず「天狗の羽根うちわ」というのを創作した。あらすじはこうだ。「おわせの天狗倉山に棲む欲深い天狗が、里の反対側の八鬼山の鬼との約束を破る。怒った鬼がニ匹づつ、山を千切って襲ってくるが、天狗が羽根うちわで扇ぐたびに吹き飛ばされ、それぞれ中村山、瀬木山、佐波留島になってしまう。最後のニ匹が力を合わせてぶん投げた大岩が、天狗倉山の頂上に命中、天狗の手からスッポ抜けた羽根うちわが海の底に今でも沈んでいて波を作っている」

紙芝居・天狗の羽根うちわ

折角、地元に天狗だの鬼だの妖怪めいた名の山があるのに勿体ない、何か利用できないものかと以前から考えていたので、筋はすぐ浮かんだ。これを、元美術教師の青木健斉上人が紙芝居にして下さり、僕はその後、地名入りの民話を五つ程書いた。 紙芝居のいくつかは今、市の図書館にある。僕の作った物語がボブさんの彫刻のように海を渡ることは多分ないだろう。