2011年4月3日日曜日

私のジャズ(14)

再び、コルトレーン 
松澤 龍一

JOHN COLTRANE LIVE IN JAPAN
(impulse MVCI-23019-22)CD












ジョン・コルトレーンが彼の新しく編成したクインテットとともに来日したのは、1966年夏のことである。私が大学に入りたての頃である。大手町にあった産経ホールに聴きに行った。新しいクインテットに何の予備知識もないまま聴きに行ったわけである。この新しいクインテットの演奏は、確かヴィレッジ・バンガードの実況録音盤が一枚だけ発売されていただけで、ほとんどの聴衆がどのような演奏になるか皆目分からないまま、コンサートに来たはずである。

衝撃的なコンサートであった。これほどまでに衝撃的なコンサートは後にも先にも無い。聴衆のすべてがそう感じたに違いない。幕が開くと、ステージにはドラムスとピアノ、それにベースがぽつんと置かれている。ベーシストのジミー・ギャリソンひとりがステージに現れ、ベースを弾き始める。これが延々と続く。10分以上も続いた頃、やおらテナーサックスを抱えたファラオ・サンダースが現れ、ラッシッド・アリがドラムスに座り、アリス・コルトレーンがピアノにつく。そして、コルトレーンのソプラノサックスが聞こえ始める。ぶつぶつと泡のようにあふれ出る音、継続するビート、いつ終わるともしれない音の洪水、永遠に、永遠に。ジャズあるいは音楽の概念を完全に飛び越えてしまった「何か」としか言いようのない音の塊。当時、コルトレーンはインド音楽に傾倒していた。彼はインドの音楽に永遠なるものを感じ、それを表現したかったのだろうか。演奏が進むにつれて、かすかに馴染みのメロディーが聞こえてくる。あの My Favorite Things だ。1時間弱の演奏が終わる。ワンステージ一曲と言う異例のコンサートであった。この衝撃的な東京コンサートの後、一年後の1967年、コルトレーンは永い眠りに付く。

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追加掲載(120104)
一曲小一時間かかった演奏のほんの最後の部分です。