2011年4月3日日曜日

I LOVE 俳句 Ⅰ-(11)

水口 圭子


この度の東北関東大震災でお亡くなりになった方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。そして、被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げます。


 メンデルの葡萄の木より剪定す  時田陶子

「メンデルの葡萄の木」とは、と不思議に思い調べてみると、東京の小石川植物園に現存すると知り、おそらく作者は実際にその木に出会ったのであろうと頷く。

遺伝の根本的法則「メンデルの法則」のメンデル(1822~1884)はオーストリア生まれの修道僧で、晩年はチェコのある修道院の運営責任者になった。彼はその修道院の醸造所で味の良いワインを造るため、葡萄の品種改良を行い、農園で栽培していた。

大正2年(1913年)、東京帝大の三好教授がチェコに行った際に、現地でこの木を知り枝分けをして貰って来た。後年チェコの原木が枯れてしまったので、平成4年(1992年)に日本の「メンデルの木」から分枝して送ったという経緯がある。

さて、我が佐野市の隣、足利市の北部にもワイン醸造所がある。発泡酒が2000年の九州沖縄サミットの晩餐会の乾杯用として採用され、一躍有名になった、ココ・ファーム・ワイナリーである

ココ・ファーム・ワイナリーは、知的障害者更生施設「こころみ学園」のワイン醸造所である。約30年前、知的なハンディを持つ人達の自立をめざして作られ、現在90名が働いている。「こころみ学園」の原点は、1950年代に特殊学級の中学生達によって開墾された葡萄畑だが、平均斜度38度のこの葡萄畑は、耕運機やトラクターが使えず、人間の足で登り降りするしかない。全体力を使う汗まみれの重労働の中で、知的障害者と言われる人達が、美味しいワインを造る担い手としての誇りを持って、慎ましくのびやかに生活している。

昨年、2代目の施設長の話を聞く機会があった。その話の中で印象に残ったのは、知的障害者の家族には、その子が「可愛くて可愛くてたまらない」というのと、「重荷で仕方がない」というのと、2種類あるということだった。幸、不幸の何れかは明白であろう。事実私も、強い絆で結ばれ和やかに暮らす障害者の家族に何度か出会っている。

ワイナリーに併設するカフェ・レストランでランチを頂いている時、葡萄畑の天辺から、カラス追いの鉦を叩く音が聞こえて来たのを思い出す。