2011年7月17日日曜日

私のジャズ(29)

今夜はシナトラで
松澤 龍一

 Only The Lonely
  (Capital CDP 7 48471 2)













シナトラ、言わずと知れたフランク・シナトラのことである。アメリカ大衆音楽が生んだ最高の男性歌手である。アメリカ本国であれほどの人気を博し、なおかつ実力も兼ね備えていながら、なぜか日本では今一つ。ああ、あのマイ・ウェイを唄ってた歌手ね。それなら聞いたことがある、とその程度である。原因は日本人の英語力にあると勝手に決めつけている。シナトラの歌は内容を分からずに聴いても面白くなければ、可笑しくもない。
Only The Lonely と題されたアルバムの一曲 One For My Baby を聴いてみよう。


朝の三時近くまで飲んだくれた酔っ払いが、Joeと呼ばれるバーテンダーにカウンター越しに管を巻いている、とこんなシーンだ。下手な訳を付けると、

おい、そろそろ三時だぜ。他の客は帰っちまったのかい。
それじゃ、ジョー、俺に一杯作り直してくれないか。お前に聞いてもらいたい話があるんだよ。
この話の終わりまで、付き合って、一緒に飲んでくれないか。
俺のあの娘に一杯、もう一杯は俺の生きざまに


...とこんな感じで続く。要は酔っ払いの繰り言なので、一向に話の核心に行かない。 One for my baby and one more for the road  と言うフレーズの繰り返しが、何とも快い。曲はハロルド・アーレン、詩はジョニー・マーサー。 one more for the road の the road を何と訳すか、頭をひねる。 「帰り路」と訳している人もいる。ちょっと違う気がする。でも、「生きざま」は大げさすぎる。好学の士の教えを請いたいところである。

この Only The Lonely  と題されたアルバム、シナトラの最高傑作でアメリカのボーカル史上燦然と輝く一枚である。