2011年7月24日日曜日

私のジャズ(30)

夏の夜はタンゴで
松澤 龍一

 LOS MEJORES DE RANKO FUJISAWA
  (東芝EMI EOS-70127)












ジャズではない。タンゴである。勿論、アルゼンチンタンゴである。唄っているのは藤沢嵐子、日本人である。たまにはジャズ以外も良いかなと思い、今回はちょっと脱線をしてしまった。

実はこのレコード、私の愛聴盤の一つで、長い間、時々、思い出したように聴いている。夫君の早川真平の率いるオルケスタ・ティピカ東京やミゲル・カロのオルケスタ・ティピカを伴奏に、アルゼンチンタンゴの名曲を全編にわたり唄っている。その中の一曲、「夜のプラットホーム」、日本の歌、歌謡曲である。服部良一が作曲し、戦前は淡谷のり子が、戦後は二葉あき子が唄いヒットした。本場のアルゼンチンタンゴに引けを取らない、実に堂々としたタンゴである。



藤沢嵐子は東京音楽学校(現在の東京芸大)で勉強した本格的な声楽家である。父親の事業がうまくいかず、途中で学業を断念しナイトクラブの歌手になり、後に夫となる早川真平とともにアルゼンチンにわたりタンゴを勉強した。タンゴ歌手としてデビューし、圧倒的な人気を得たのは、まさに、そのアルゼンチンであった。

ランコ・フジサワの名はアルゼンチンに広く行きわたっていたようだ。帰国後、紅白歌合戦にも出場したりと、日本でも活躍したが、大分前に芸能界からはきっぱりと引退し、現在は新潟で一市井人としてひっそりと暮らしていると云う。