2011年7月31日日曜日

私のジャズ (31)

超前衛!
松澤 龍一

NEW YORK EYE and EAR CONTROL (ESP 1016)












俗な言い方かもしれないが、このレコードは前衛である。前衛ジャズと呼ばれていたものである。それも、超前衛。1960年代、東京はジャズの街だった。ジャズ喫茶と呼ばれる喫茶店が東京のいたるところにあった。煮しめたコーヒー一杯で、煙草の煙に燻されることを気にしないなら、二時間も三時間もねばれる。ジャズは黙って聴くべしと私語は許されない。ドアを恐る恐る開けると、鼓膜が破れんばかりの大音響が飛び込んでくる。客の視線が一斉にこちらを向く。男であっても殆んどが肩までの長髪、缶入りピースなどスパスパ吸ったりして。

この NEW YORK EYE and EAR CONTROL と言うレコードは、その頃、持てはやされていた前衛ジャズと呼ばれるものである。アルバート・アイラー、ドン・チェリー、ジョン・チカイ、ラズエル・ラッド、ゲイリー・ピーコック、サニー・マレーと60年代前衛ジャズのオールスターキャストで吹き込まれた同名の映画のサウンドトラックである。映画そのものもいわゆるアングラ映画でどんな内容か見当もつかない。演奏は、当時 Collective Improvisation (集団的即興演奏)と実しやかに言われていたものだが、今聴くと、中学か高校のブラスバンドが演奏会前にそれぞれ勝手に音出しの練習をしているのをLP両面に録音しているに過ぎない。

これを当時は後生大事に聴いていた。少し大げさに言えば、これに理解を示すことが、自分の先進的文化人の証であるかのように。当然、この種の音楽は永く続かなかった。ほとんどのプレーヤーが姿を消した。ある者はロックに走った。このレコードで最も存在感のある演奏をしていたテナーのアルバート・アイラーは NEW GRASS  と言うロック調のアルバムを吹きこんでいる。これは中々楽しい。