2011年8月21日日曜日

私のジャズ (33)

高僧セロニアス・モンク
松澤 龍一

MONK SUITE : KRONOS QUARTET
 (Landmark LCD-1505-2)












ジャズ界の奇人変人の一人とされているセロニアス・モンク。名前からして変だ。MONK、日本語では「僧」のことである。風貌もどこか宗教家ぜんとしたところがあり、ジャズの高僧などとも言われてきた。レコードを売らんがための宣伝文句ではあるが。ステージを徘徊する奇行で知られていた。他のプレーヤーがソロを取っている時、ピアノを離れあてもなくステージをうろうろすると言われている。来日のステージで、この奇行が見られたか記憶にない。


奏法が実にユニークだ。ピアニストのしなやかな指は無い。あるのは鍵盤を打つ棒のような剛直な指だ。時々調子を外したような音を出す。鍵盤のミスタッチなのか意図的なものかは分からない。40年代に「ミントンハウスのチャーリー・クリスチャン」というビバップ生誕の頃の貴重な音盤で聞かれるセロニアス・モンクは全然違っていた。テディ・ウイルソンばりの極めて流暢なピアノであった。いつ頃から、彼のユニークなスタイルが生まれたのだろう。この打楽器的奏法は、セシル・テーラー、日本の山下洋輔に引き継がれている。

モンクは演奏家だけでなく、作曲家として多くの名曲を残している。このCDはクロノス弦楽四重奏団と言うサンフランシスコに拠点を置く、純粋なクラシックのグループが「モンク組曲」と銘打って、モンクの名曲を演奏している。一瞬、バルトークの弦楽四重奏曲を聴いているかの錯覚に陥る。バルトークとモンク、どこか共通するものがあるのかも知れない。