松澤 龍一
BIX & TRAM - 1927 (EMI RECORDS PMC7064) |
ビックス・バイダーベック、最初の白人のジャズプレーヤーと言われているコルネット奏者である。ニューオリンズの紅燈街が閉鎖され、そこで発生した、後にジャズと呼ばれる音楽は、そこで活躍した多くの黒人プレーヤーとともに、ミシシッピーを北上し、シカゴ、デトロイトに、そしてニューヨークに根を下ろした。北部の若者たちの中にも、この南部から来た奇妙な音楽に惹かれるものも出てきた。いくにんかの若い白人が見よう見まねで黒人たちの真似をし始めた。
その中で、ビックス・バイダーベックだけは異彩を放っていた。単なる黒人の真似で無く、彼自身の個性がその演奏の隅々に光る。中低音を活かした、どこかくすんだ音色、滑らかなフレージング、どことなく漂う都会的なセンス、明かに、ルイ・アームストロングとは違う。1920年代のことである。
このレコードで、一緒に演奏しているのは、フランキ-・トラムバウアー、ビックスの盟友である。演奏している楽器はCメロディーサックスと呼ばれる聞き慣れないもの。アルトとテナーの中間のサックスで1920年代に大いに流行った楽器である。当時、家庭でピアノに合わせて吹かれていたと言う。一家に一台の℃メロディーサックスがあったとも言われる。何とも古風な演奏だが、妙に快い。
フランキ-・トラムバウアーのサックスやビックスのコルネットを聴いていると、やはり、10年近く後に現れるレスター・ヤングに思いがゆく。レスターからモダンジャズの黎明、ビバップのパーカーにたどり着き、1950年代のモダンジャズ全盛へと展開する。モダンジャズの源泉はビックス・バイダーベックなのかも知れない。そう思って聴くとビックスがマイルスに聞こえてくるから不思議だ。