2011年9月18日日曜日

尾鷲歳時記 (34)

大騒動現世顔型の2
内山思考 

 落武者の裔かも知れず八頭  思考 

23年前の思考マスク












少し太めのストローを使っているので、ゆっくり呼吸していれば息苦しさを感じない。 これだったら上手く行きそうだな、と安心して静寂を楽しんでいると、妙な音がし始めた。 「ググッグググッ」 「ググググッ」 妻が必死に笑いを堪えているのだ。 緊張の糸が一気に切れて僕は噴き出した。 「ぶぶぅ」 まだ固まる前の石膏がボコボコと泡立った。

万事休す、と思った瞬間、 「笑うなっ!」 バチンと妻が僕の太ももを叩いた。自分が笑っておいて人に笑うな、も無いもんだが、この一打のおかげで、笑魔は退散し、元の平穏が訪れた。 プルルル…、 今度は電話だ。妻が立って行く気配。 「ハイハイ、あーいつもお世話になってます。ハイ、おります…が、ちょっと手が、顔が離せませんので、イエ、ハイまた後ほど」とか何とか言っている。 「あと十分」 ああもう少しだ。

安心したが待てよ、顔がだんだん熱くなってくるではないか。そうだ、石膏は固まる際に発熱するのだ。しまった、熱い、熱いぞオイ、まだかよ。もう耐えられない限界だ。その時、 「ハイおしまい」とタイムアップ、ホッとして凹型を顔から離そうとしたが、 「痛い痛い」 次の試練が待っていた。

第二句集では子規を
気取ってみた
眉毛とまつげ、少し伸びた前髪と鬢が石膏と一緒に固まってしまったのである。これは救急車を呼ばねば、と焦ったが、妻がハサミを隙間に差し込んで毛を切ってくれ、後は、エイままよ、と引っ張ると、 ブチブチッと音がして痛みと共にあたりが明るくなった。この世に戻った気がした。 眉毛、まつげは失ったが、温熱効果なのか顔はスベスベになっていた。