2011年9月25日日曜日

私のジャズ (38)

ドラムの妙技
松澤 龍一

CD (Nihon Victor VICJ-23547)












友人が退職を機にドラムを習い始めた。彼の話によると、ドラムの先生(若い女性)が最初に教えてくれたのは、ドラムは叩くのでなく落とすことだそうだ。つまり、ドラムのスティックで太鼓を叩こうとしてはいけない。手首を柔らかく重力に逆らわず、スティックを太鼓の上に落とすのだと。なるほどと思った。叩いていたのでは、アート・ブレキーのナイアガラ瀑布と呼ばれたあのスネアドラムへの連打は生まれないだろう。サッチモの初期の録音ではベイビー・ドッズと言うドラマーが参加しているが、ベースドラムは使えなかったそうである。当時は蝋盤に直接針で音を刻み込んでいたため、ベースドラムの音で針が飛んでしまい、使えなかったと云う。

ケニー・クラークから始まったモダンジャズのドラマーの中で、マックス・ローチほど、テクニックに於いても音楽性に於いても群を抜くドラマーはいないと確信する。パーカーのすさまじい速さのパッセ―ジに付いていけたのはいけたのはマックス・ローチだけだった。パーカーの多くの録音に付き合い、パーカー亡きあと、ソニー・ローリンズやクリフォード・ブラウンなどの当時きってのヴァーチュオーゾと多くの名盤を遺している。事実、ソニー・ローリンズやクリフォード・ブラウンの代表作には必ずマックス・ローチがいる。

このCDはソニー・ローリンズをリーダーとして吹き込まれたものだが、マックス・ローチを聴くべきものであろう。勿論、絶頂期のソニー・ローリンズやクリフォード・ブラウンも素晴らしい。


VALSE HOTと題されたこの曲、直訳すると「熱いワルツ」。三拍子のワルツである。ジャズは元々フォービート系で、4分の4拍子の2と4にアクセントを置く、いわゆるアフタービートからスウィングと呼ばれる独特のリズムを生み出すものだが、果たして3拍子でスウィングするのだろうか。大きな挑戦である。さすが、マックス・ローチ、ちゃんとスィングしている。最後の方ではソロも取っている。良く聴くとブンチャッチャ、ブンチャッチャの三拍子をちゃんとキープしている。