2011年11月6日日曜日

尾鷲歳時記 (41)

文化の日の思考
内山思考 


ここ伊勢路かなた熊野路石蕗の花   思考 

御浜町で買ったミカン、
これで百円は安い












春夏秋冬、四季はくっきり分かれているようで実はそうではない。それぞれの季節の間にも自然の移ろいは確かにあって、その風光は決して歳時の脇役ではないのである。 例えば、晩秋から初冬にかけての半月ほども、僕にとってはとても過ごしやすく魅力的な日々だ。今朝、路地を歩いていたら近所のおじさんに会った。

「ハーイ(こんにちは)」 
「ヨーイどこ行くんどえ(ハイこんにちは、どこ行くの)?」
「ちょっと郵便局」
「そーかえハハッ」
 尾鷲は漁師町なので言葉はブツ切りで荒っぽいが顔は笑っている。

「ヨイ!」
 今度は、駐車場の近くの家の窓から別のおじさんが手招きする。
 「ハーイ(何ですか)?」
「アメしゃぶってけ」
氷砂糖が入った袋がグイ、と突き出され、
 「ありがと」
と一つつまむと、
「オイ、もっと大きいの取らんかい!」

水晶みたいだけど
今日貰った氷砂糖


結局、僕は口の中でゴロゴロと氷砂糖を転がしながら車を走らせることになった。このおじさんは毎回、僕に氷砂糖をくれるのだ。 信号待ちをしていると、蒼く澄んだ空を西から東へ旅客機がゆっくり横切るのが見えた。僕は飛行機が大好きで、時間が許せば空の彼方へ消えて行くまで眺めていたいぐらいである。乗るのももちろん大好き、しかし、あまりその機会がないのは残念だ。

おっと信号が青に変わった。 ミカンが当たり前のように出回るのもこの頃である。 つい最近まで青ミカンだったのに、もうそんな酸っぱい代物は店頭にない。本当にさり気なくどこの家の茶の間にも置かれていて、話のついでに一つ剥いては食べ、また一つ手にして相づちを打つ、そんな習慣が来年の春先まで続くのである。 先日、田辺市に叔父を見舞いに行った帰り御浜町の無人市場でミカンを買ったら、道の傍にもう石蕗の花が咲いていた。