2011年11月6日日曜日

私のジャズ (44)

伝統に戻ったアーチー・シェップ
松澤 龍一

  Deja Vu Archie Shepp Quartet
 (VENUS TKCV-35151)












伝統に戻ったアーチー・シェップと言うよりも、アーチー・シェップには元々伝統的なジャズのルーツを感じさせるものがあった。どんなにフリーのジャズをやろうとも、底に流れるのは、コールマン・ホ―キンスから始まりベン・ウェブスターを経由して伝わる伝統的なテナー奏法である。

コルトレーンなどより、はるかにこの伝統的なテナー奏法の流れに近い。一説にはコルトレーンの引きにより、いわゆるフリー・ジャズに登場した時は、まさに颯爽としたフリー・ジャズの騎手であった。目覚めたアフリカ系アメリカンとして、政治的にも過激で、その荒々しいトーンと強烈なメッセージにより、新しいジャズの到来を高らかに宣言しているかに見えた。

堕落した、円熟した、色々と評価は分かれるところであるが、ヴィーナスと言うレコード会社に吹き込まれた甘いバラード集には本来のアーチー・シェップが持っている伝統的なジャズの豊かな香りが満ち満ちている。日本ではジュリー・ロンドンで有名になった「Cry Me A River」を演奏している。曲の最後ではアーチー・シェップ自身が唄っている。大分ジュリー・ロンドンとは違う。「堕落した」などと目くじらを立てなくても良い。これが本当のアーチー・シェップなのかも知れない。


ヴィーナスと言うレコード会社は日本のレコード会社である。何よりも驚くのはその録音の良さである。CDケースの写真も秀逸。上掲の写真の女性、顔を見せずに全身だけにライトを走らせ、無機的にわざとしているようだ。マネキンぽくて良い。YuTubeの映像も実際のCDケースの写真を用いている。やはり女性がマネキンぽく立ち、その脇の窓から顔を見せない男の帽子だけが覗いている。何かドラマを感じる。残念なのはCDケースの薄っぺらな写真であることだ。これはぜひアナログのレコードのジャケットにして欲しい。