内山思考
沈みゆくもの歳晩の秒針も 思考
町の魚屋さんのサンマすだれ |
今年は例年より遅く、サンマの干物が魚屋さんの軒先に簾のように干され始めた。 少し塩を効かせてから、内臓を取らずそのまま尾をビニール紐などで結わえ、二匹、あるいは四匹を振り分けにして吊し、寒風にさらす。いわゆる丸干しである。 サンマと言えば、関東では脂の乗ってよく肥えた新鮮なのを、煙を出しながらジュージュー焼いて大根おろし、のイメージだろう。
ところが、僕たち紀州の者には、脂の抜けた丸干しをサッと炙って、歯で毟って食べる冬の味覚なのである。 だから「秋刀魚」ではなく、「冬刀魚」もしくは「冬剣魚」の字を充てたいぐらいなのである。形状もそれに似ているし。 まだまだ、年が明けて寒になればもっと旨味が出てくる。 俗にこの辺りでは水分が抜けて堅くなったものを「カンピンタン」と呼び、二本を両手で持って打ち鳴らせば、寒、寒と音がするぐらいである。これを特に好む人もいて、僕もその一人。
今年の初めには、知人のNさんが、サンマを桜の木でいぶした「燻製」を持って来てくれ、それがまた身震いするほど美味だったことをこのコラムに書いた記憶がある。あれをまた味わってみたい、というのが今、沢山ある僕の夢の一つである。 ここでふと、僕に食べられる一匹のサンマの時間を戻してみることを思いついた。
近所の奥さんも これから丸干し作り |