松澤 龍一
二十歳になるかならないかで、マイルス・デイビスのバンドのドラマーとして抜擢されたトニー・ウィリアムス、ジャズ史上の最後の天才である。それまで無名であった彼を見出したマイルスの慧眼も素晴らしい。彼を得て、マイルスは大きな飛躍を遂げる。
ジャズ・プレーヤーとして最後の華を咲かせる。「フォー・アンド・モア」、「マイ・ファニー・バレンタイン」、「イン・ベルリン」、「イン・トーキョー」などのライブの名盤を次々と発表する。急テンポのドラムに触発されて、バリバリ吹きまくるくマイルス、それに絡んでくるトニー・ウィリアムスの自由奔放なドラミング、スリリングな演奏でまさにジャズの醍醐味を味あわせてくれる。
他のメンバーもハービー・ハンコック(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、ジョージ・コールマン、ウエイン・ショーター、あるいはサム・リバース(テナーサックス)と、みんな一流揃いであるが彼らの影が霞んでしまう。この時期のマイルスのバンドはまさにトニー・ウィリアムスとマイルスを聴くべきものであった。
その後、マイルスは変貌する。エレクトリック化(楽器の電気化)とロックに走る。このマイルスの変貌とジョン・コルトレーンのフリー・ジャズへの傾倒によって、ジャズと言う音楽はその終焉をむかえる...と私は思う。そう思うと、トニー・ウィリアムスはジャズ史上の最後の天才だったし、マイルスとのコラボレーションは100年近いジャズの歴史の最後に咲いた大輪の華だったのかもしれない。
トニー・ウィリアムスのドラム・ソロ、聴かせますね。