2012年2月5日日曜日

私のジャズ(57)

お洒落なジャズ
松澤 龍一

Portrait of Bill Evans (VICJ-61025) 












上掲のCDケースの写真、大学教授では無い。エリート・ビジネスマンでも無い。れっきとしたジャズ・ピアニストである。ビル・エバンス、白人のピアニストで人気があった。特に女性から人気があった。ジャズを聴くのは8割、あるいは9割まで男性と言うのが通説であるが、これはかなり真実に近い。

ジャズをのめり込んで聴く女性に出会ったためしがない。唸りながらピアノを弾くバッド・パウエル、鍵盤を叩き壊すセシル・テイラー、異様な形相でステージをふらつくセロニアス・モンクなど、やはり女性は生理的に受け付けないのかも知れない。

その点、ビル・エバンスは清潔なたたずまい(後年は大分変貌したが)、作りだす音楽も端正、それでいて少し甘く、聴いていて疲れない。女性が好む訳が良く分かる。

下の音盤は Interplay  と題されたビル・エバンスのリーダー・アルバムで、トランペットにフレディ・ハバード、ギターにジム・ホールを加えた変則クインテットで吹きこまれたものである。発売当時のレコード・ジャケットも凡そジャズのレコードとは思えないお洒落なデザインで、演奏も六本木辺りのバーで洒落たカクテルを飲みながら聴けばぴったりとくる。もちろん、隣には異性が座って欲しい。一曲目の題名もこれまたお洒落、スタンダード・ナンバーで「あなたと夜と音楽と」


今、巷に流れているジャズ風の音楽の根っこは、案外、この辺りかもしれない。イージー・リスニングの意味で、スムース・ジャズなどと呼ばれているようだが、この言葉を聴くたびに胸糞が悪くなる。