2012年7月1日日曜日

尾鷲歳時記(75)

梅雨の晴れ間
内山思考

蜜の酒ライ麦のパン急がぬ愛  思考

久し振りの晴れ間で影クッキリ












妻には従兄姉が41人いる。父方が1人なのに対し母方40人、しかも妻はその中で一番年下だ。 そして一人っ子。 先日、歳が近く妻とは姉妹のように育ったというミエちゃんとノブちゃん姉妹が東京からやって来た。目的は叔父の法事である。電話やメールのやり取りはあっても実際に会うのは久し振りなので、彼女たちが尾鷲の実家にいる4日ほど、妻はほとんど毎夜お喋りをしに行っていた。

やはり幼なじみとの会話は楽しいと見えて帰宅した妻の表情は、普段より和らいでいる。それは僕にも嬉しいことだった。姉のミエちゃんはおっとりした日本美人、妹のノブちゃんはメリハリの利いた明るい性格である。こちらも美人。いわば対照的な静と動の二人なのだが共通点があって、それは会話にユーモアを忘れないことである。

気が置けない相手だともっと砕けて、絶妙のジョークが飛び出す。いわゆるオヤジギャグ(僕は女性の場合、おばんギャルド・ジョークと呼ぶ)にも感性の冴えを見せることしばしばだ。しかも、尾鷲に帰って来ると東京弁など知らないわとばかり、尾鷲弁オンリーになってしまう。この切り替えも素晴らしい。だから、妻も子供の頃に戻って気を許せるのだろう。

ジャズもジョークもスイングが必要
(今聴いて来た)
尾鷲人になって三十数年の僕でもやはり根っからの訛りには及ばない。滞在中の1日、皆で隣の熊野市へ地中海料理を食べに行くことになった。運転しているせいもあって、僕は後部座席の談笑の聞き役だ。尾鷲市内を出て矢の川峠を登り始めると話題が食べ物になった。鰻の稚魚不足で今年はかなりの高値になるとか、どこそこのが旨い、いややはり名古屋の老舗だとかもう甘いタレの香りが車内にたちこめそうな盛り上がりである。

妻が、去年の丑の日は養殖物と四万十川産を食べ比べたがやはり天然物は違うねと言うと、ミエちゃんがさり気なく「それは身が四万十(しまっと)るからだろうね」と相槌をうった。駄洒落には敏感なはずの僕もしばらく気づかないほどの名人芸?である。この調子の賑わいに笑わされながら、僕の気持ちは梅雨の晴れ間のようにさっぱりとしていた。