2012年7月1日日曜日

私のジャズ(78)

弦楽器は相性が悪い
松澤 龍一

 CHARLIE PARKER WITH STRINGS
  (VERVE 314 523 984-2)













不思議とジャズと弦楽器は相性が悪い。元々、ジャズに使われるようになった楽器は、南北戦争で敗れた南軍の軍楽隊の楽器と言われているので、ジャズには管楽器系が主流になるのは当然であろう。弦楽器のジャズ・プレーヤーを思い浮かべても、バイオリンの ステファン・グラッペリとレイ・ナンスくらいなものだ。彼らがジャズ・プレーヤ―として華々しく脚光を浴びたかと言うとそうでもない。何となく脇役、変な言い方をすればゲテもの扱いをされているのが正直なところ。

ジャズの弦楽器と言えば、コントラバス(ウッド・ベース)があるが、これとて指で弾くピッチカート奏法がほとんどで、弓で弾く、この楽器本来の奏法では無い。ハード・バップのスターベーシストのポール・チェンバースはよく、弓で弾くアルコ奏法でソロをとっていた。これが全く頂けない。彼のアルコ奏法のソロが始まると、今まで流れていた緊張感が途端にずっこける。昔、このポール・チェンバースのアルコソロを象のオナラと皆で揶揄していたことを思い出す。

ところがジャズ・プレーヤーの中には、以外と弦楽器との共演を望むものが多い。チャーリー・パーカーは VERVE に CHARLIE PARKER WITH STRINGS と言うアルバムを吹き込んでいる。解説によれば、パーカーの方からこの企画を持ち込んだらしい。ビリー・ホリデイは晩年にレイ・エリス楽団と LADY IN SATIN  と言う有名なアルバムを出している。弦楽器を主体としたオーケストラをバックにバラードを切々と唄っている。これもビリー・ホリデイの方から共演を望んだものらしい。

下記の音源はスタン・ゲッツの FOCUS  との題名で発売されたレコードの冒頭の一曲で、ジャズに使われた弦楽器で、これ以上の演奏は無いと未だに信じているものである。とにかくスィングする。弦楽器がスウィングする。スタン・ゲッツのテナー・サックスも熱い。ロイ・ヘインズのドラムのブラッシュ・ワークも凄い。