2011年6月5日日曜日

尾鷲歳時記 (20)

幻の猫・今帰仁の犬
内山思考

 蚊取線香斜めにアンドロメダ星雲  思考

路地の風景












尾鷲の路地を歩いていると、よく野良猫を見かける。港町なので食べ物には困らないようだ。 たくさん干してある魚の一つをくわえて走り去る姿も日常にある。みんなそれぞれにふてぶてしい面構えだが、中に一匹、凄く存在感のある奴がいて、僕は彼(多分)をねこぞうと名付けた。 ねこぞうは兎に角デカい。態度も図体も。 普通の野良猫は人の気配がすると逃げ腰になるが、ねこぞうは違う。余程近づかないと動かない。じっと眼(がん)を付けてくるからこちらも睨む。乾坤一擲、まさに火花を散らす闘いが始まる寸前、彼は対手の力量を見切って悠然と去って行くのだ。 いつだったか、ねこぞうが顔面血だらけになって目の前に現れたことがあった。 「お前、どうしたんだ?」あまりの形相に僕は思わず声をかけた。 猫同士の出入りでもあったのか。しかし彼は、チラと視線を向けただけで路地の奥に消えた。
こんな感じ…かな

いつしかねこぞうのファンになってしまった僕は、路地を歩く度に彼の姿を探すのだが、最近とんと見かけない。一体どこへ行ってしまったのだろう。 野良猫はいても、昔のように街に野良犬はいない。

ところが、この春、沖縄の今帰仁(なきじん)で素敵な?野良犬に出会った。 美ら海(ちゅらうみ)水族館に行く途中の空き地に、ワンボックスカーを停めて貝細工を売っている小父さんがいて、時間潰しに冷やかしていると、少し離れた所に犬がいる。 落ち着きのある大型犬だ。 「小父さんの犬?」 立て板に水、の貝の講釈をはぐらかすように問うと、 「違うよ、野良犬だよ」 と返事が帰って来た。 犬は嫌いではないが、野良と聞いて近寄る度胸もない。その犬は、僕がそこにいる間、ずっとうりずんの海を眺めていた。