2011年6月5日日曜日

私のジャズ (23)

マフィアの情婦、ルース・エッティング
松澤 龍一

 Hello Baby (Biograph BLP-C-11)












最初、このジャケットを見た時は、マフィアの情婦かと思った。すぐに知ったのは、この女性、本当に、マフィアの情婦だった。アメリカのショービジネスで20年代、30年代に活躍した女性歌手の嚆矢、ルース・エッティングである。実在のギャング、マーティ・スナイダーが自分の情婦、ルース・エッティングをショービジネス界に売り込み、一躍スターにさせたのである。芸能界からヤクザの情婦では無く、ヤクザの情婦が芸能界入りをしたのである。1955年に「情欲の悪魔」と言う映画で、この辺りの事情が描かれている。ギャングのマーティ・スナイダーにジェームス・ギャグニーが扮し、ルース・エッティングは、なんと、ドリス・デイが演じている。

Hello Baby と題されたこのレコード、なんとも古めかしい。伴奏にときおりバイオリンなども加え、甘ったるい歌声がかぶさる。現代の刺激的な音楽に慣れた耳にはかえって新鮮に聞こえるかも知れない。これを聞きながら昼寝でもすれば、きっと良い夢が見られるだろう。ライナーノーツの中に彼女のサイン入りの文章がある。アービング・バーリンのような大御所とも親交があったようだ。でも、この英語はあまりにも稚拙だ。
You Tube に彼女の画像と唄が収録されている。ぜひ覗いて欲しい。歌だけ聴いても彼女の魅力は伝わらない。映像と一緒に味わうべきであろう。
お薦めは、All of me である。ヤクザでなくても、マフィアでなくても、男なら心は動く。