2011年6月19日日曜日

私のジャズ(25)

発狂するパーカー
松澤 龍一

CHARLIE PARKER ON DIAL COMPLETED
  (SPOTLITE  CJ25-5043~6)













ジャズは発生してから、たかだか100年にも満たない音楽である。但し、その発生からその後の音楽としての変遷が音盤と言う記録媒体で辿れる稀有な音楽でもある。時々、残酷なことを記録に残す。パーカーがカルフォルニアで、ハワード・マギーと吹き込んだ、いわゆる「ラバー・マン」セッションもこの残酷なことの最たるものの一つであろう。1946年7月29日の吹き込みである。場所はカルフォルニア州ハリウッド。この日パーカーの体はその極限に達していた。麻薬と酒でボロボロだった。立っていることさえままならぬ状態だった。その上、この録音のために覚醒剤を大量に飲んで来たのだから、その状態は推して知るべしである。

こんな状態のパーカーでも、このセッションで4曲の吹き込みを行っている。その内の一つが有名な Lover Man である。出だしの音がなかなか出てこない。吹き始めてもメロディーがブツブツ途切れる。尋常な演奏では無い。立っていることもやっとのことであれば、執念というか根性と言うか、理性の彼方の何かで演奏している。そう思うと空恐ろしい。鬼気迫るものがある。この吹き込みをやっとのことで終え、宿泊先のホテルに帰る。そこのロビーで全裸で暴れる。パーカーは発狂する。取り押さえられ、そのままカマリロと言う町の精神病院に収監される。

CHARLIE PARKER ON DIAL COMPLETED と題されたCDアルバムにこのセッションの全曲が遺されている。全集と言う観点からこのセッションを削除はできなかったのであろう。でも、できれば世に出して貰いたくなかった録音である。その後パーカーは退院し次々と名演をダイアルに遺す。天才パーカーの名を恣にし、これ以後のいわゆるモダン・ジャズの礎となる。

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追加掲載(120104)
発狂する数時間前のパーカー。