2011年7月10日日曜日

第35回現代俳句講座(講演:川名 大) 資料編


「戦後俳壇史と俳句史との架橋、そして切断」
(日時:平成23年6月11日、場所:東京都中小企業会館)
当日に配布された資料から句を抜粋して掲載する。戦後俳句の顕著な傾向を二項対立的に川名氏は掲げている。これらの句に対する川名氏の評価は、当ブログの前・後編を読まれて判断していただきたい。(文責:大畑 等)

【昭和20年代】

■ 社会性/私性(社会性俳句/境涯俳句・闘病俳句)
軍艦が沈んだ海の 老いたる鴎     富澤赤黄男
いつせいに柱の燃ゆる都かな      三橋 敏雄
白蓮白シャツ彼我ひるがえり内灘へ   古沢 太穂
      /
霜の墓抱き起されしとき見たり     石田 波郷
鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ     林田紀音夫
戦後の空へ青蔦死木の丈に充つ     原子 公平


■ 外向性/内向性(社会性俳句/根源俳句・境涯俳句)
暗闇の眼玉濡さず泳ぐなり       鈴木六林男
      /
炎天の遠き帆やわがこころの帆     山口 誓子
猟夫と逢ひわれも蝙蝠傘肩に      山口 誓子


■ 写実性/象徴性(写生・リアリズム/暗喩)
壮行や深雪に犬のみ腰をおとし     中村草田男
      /    
切り株はじいんじいんと ひびくなり  富澤赤黄男


■ 原自然/季題趣味
天つつぬけに木犀と豚にほふ      飯田 龍太
      / 
しぐるるや駅に西口東口        安住 敦


■ 表現/内容(シニフィアン・語の形状、配置/シニフィエ・概念・意味)
山国の蝶を荒しと思わずや       高濱 虚子
      /
桔梗や男も汚れてはならず       石田 波郷



【昭和30年代】

■ 組織/個人
見えない階段見える肝臓印鑑滲む    堀  葦男
銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく   金子 兜太
      / 
舌いちまいを大切に群衆のひとり    林田紀音夫
引き廻されて草食獣の眼と似通う    林田紀音夫

■ 外部現実/内面意識
銀行へまれに来て声出さず済む     林田紀音夫
      /
消えた映画の無名の死体椅子を立つ   林田紀音夫

■ 暗喩/コード/見立て
わが湖あり日蔭真暗な虎があり      金子 兜太
ぶつかる黒を押し分け押し来るあらゆる黒 堀  葦男
      /
えつえつ泣く木のテーブルに生えた乳房  島津  亮
      /
妻へ帰るまで木枯の四面楚歌       鷹羽 狩行

■ 二物衝撃/切れの重層
広場に裂けた木塩のまわりに塩軋み    赤尾 兜子
メタフィジカ麦刈るひがし日を落とし   加藤 郁乎
      /
黄の青の赤の雨傘誰から死ぬ       林田紀音夫
明日は/胸に咲く/血の華の/よひどれし/蕾かな  
                                高柳 重信


【昭和40年代】

■ 時間/空間
餅焼くやちちははの闇そこにあり   森 澄雄
      /
かたつむり甲斐も信濃も雨のなか   飯田 龍太

■ 伝統化した言葉/裸形の言葉・時間
秋の淡海かすみ誰にもたよりせず   森 澄雄
      /
萌えるから今ゆるされておかないと  阿部 完市

■ 観念/現実・人生
身の中の真つ暗がりの蛍狩り     河原枇杷男
      /
終戦忌杉山に夜のざんざ降り     森 澄雄