「戦後俳壇史と俳句史との架橋、そして切断」
(日時:平成23年6月11日、場所:東京都中小企業会館)
当日に配布された資料から句を抜粋して掲載する。戦後俳句の顕著な傾向を二項対立的に川名氏は掲げている。これらの句に対する川名氏の評価は、当ブログの前・後編を読まれて判断していただきたい。(文責:大畑 等)
【昭和20年代】
■ 社会性/私性(社会性俳句/境涯俳句・闘病俳句)
軍艦が沈んだ海の 老いたる鴎 富澤赤黄男
いつせいに柱の燃ゆる都かな 三橋 敏雄
白蓮白シャツ彼我ひるがえり内灘へ 古沢 太穂
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霜の墓抱き起されしとき見たり 石田 波郷
鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ 林田紀音夫
戦後の空へ青蔦死木の丈に充つ 原子 公平
■ 外向性/内向性(社会性俳句/根源俳句・境涯俳句)
暗闇の眼玉濡さず泳ぐなり 鈴木六林男
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炎天の遠き帆やわがこころの帆 山口 誓子
猟夫と逢ひわれも蝙蝠傘肩に 山口 誓子
■ 写実性/象徴性(写生・リアリズム/暗喩)
壮行や深雪に犬のみ腰をおとし 中村草田男
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切り株はじいんじいんと ひびくなり 富澤赤黄男
■ 原自然/季題趣味
天つつぬけに木犀と豚にほふ 飯田 龍太
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しぐるるや駅に西口東口 安住 敦
■ 表現/内容(シニフィアン・語の形状、配置/シニフィエ・概念・意味)
山国の蝶を荒しと思わずや 高濱 虚子
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桔梗や男も汚れてはならず 石田 波郷
【昭和30年代】
■ 組織/個人
見えない階段見える肝臓印鑑滲む 堀 葦男
銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく 金子 兜太
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舌いちまいを大切に群衆のひとり 林田紀音夫
引き廻されて草食獣の眼と似通う 林田紀音夫
■ 外部現実/内面意識
銀行へまれに来て声出さず済む 林田紀音夫
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消えた映画の無名の死体椅子を立つ 林田紀音夫
■ 暗喩/コード/見立て
わが湖あり日蔭真暗な虎があり 金子 兜太
ぶつかる黒を押し分け押し来るあらゆる黒 堀 葦男
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えつえつ泣く木のテーブルに生えた乳房 島津 亮
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妻へ帰るまで木枯の四面楚歌 鷹羽 狩行
■ 二物衝撃/切れの重層
広場に裂けた木塩のまわりに塩軋み 赤尾 兜子
メタフィジカ麦刈るひがし日を落とし 加藤 郁乎
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黄の青の赤の雨傘誰から死ぬ 林田紀音夫
明日は/胸に咲く/血の華の/よひどれし/蕾かな
高柳 重信
【昭和40年代】
■ 時間/空間
餅焼くやちちははの闇そこにあり 森 澄雄
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かたつむり甲斐も信濃も雨のなか 飯田 龍太
■ 伝統化した言葉/裸形の言葉・時間
秋の淡海かすみ誰にもたよりせず 森 澄雄
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萌えるから今ゆるされておかないと 阿部 完市
■ 観念/現実・人生
身の中の真つ暗がりの蛍狩り 河原枇杷男
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終戦忌杉山に夜のざんざ降り 森 澄雄